Prologue


【今日も電話が、かかってきた。
メス猫の交尾のようにヒステリックなベルの音が聞こえると、皮膚が一瞬で粟立ち、体が細かく震え、胃を熱い爪で引っかかれるような痛みと不快感に、発狂しそうになる。
電話がなければ、世界はどんなに安らかだろう。
電話はいつも、醜い言葉、汚い言葉、呪われた言葉しか吐き出さない。
粘り着くような、恨めしげな、無遠慮な、卑小な、腐臭漂うあの声が、美しくあるべき世界を、ゴミで一杯にしてゆく。

電話のベルを、しつこく鳴らす奴ら、みんな死んでしまえばいい!】



〜プロローグ・自己紹介の代わりの回想―俺がなりたかったもの〜

本当の幸いは一体何だろう。
宇宙の片隅で、そんなことを考えた少年がいた。
俺の幸いは、白竜だった。
あの頃、白竜が隣にいるだけで胸がはずみ、白竜が朗らかな澄んだ声で物語を紡ぐとき、俺達を取り巻くあらゆるものが虹色にきらめいた。
「俺、作家になるんだ。俺の本を沢山の奴らに呼んでもらう。そうしてそいつらが、幸せな気持ちになれたらいいな」
あたたかな木漏れ日の下で、白銀の髪を揺らしながら、白竜は明るい目をして未来の夢を語った。
「剣城にだけ教えてやったんだ。剣城は特別だからな」
綺麗な声で囁き、悪戯っぽい目をしてじっと俺を見つめた。
「剣城の夢はなんだ?大きくなったら、剣城はどんな人間になりたいんだ?」
キスをしそうな距離まで白竜の顔が寄ってきたので、俺はひどく汗をかいてしまい、どっちを向いていいのかわからなくなった。
脳味噌を両手でぎゅっと絞り上げられるほど真剣に考え、ちゃんと答えなければと必死になり、頬を熱くして、やっとのことで、
「俺は…サッカーボールに、なりたい」
と答えると、大笑いされた。

あれから三年が過ぎた。
俺の聖地は喪われ、白竜は姿を隠した。俺は暗い引きこもり生活のあと、平凡な中学生になった。
中二も終わりに近づいた今、俺はまだサッカーボールになれず、幸いの意味もわからないまま、夕暮れの、やわらかな金色に染まる文芸部で、"文学少年"の、おやつの作文を書いている。



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