「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっ!!」
「風丸っ!?」
急に自らの体を抱き、膝をついて苦しみ出した風丸を俺は唖然と見ることしかできなかった。
本当は今すぐにでも駆け寄りたいのだが、何故か足がすくんで動けなかった。
そして、苦痛の叫び声が止んだと思うと、そこには黒い蝶の羽根を持ち、瞳がいつもの琥珀色ではなく、血のように真っ赤な緋色になっている風丸の姿があった。
今まで色んな奴らと戦ってきたけど、今の風丸から発っせられる気に試合の中で初めて恐怖を感じ、背筋が凍った。
「こ、これが、ナイトメア・バタフライかよ…!?」
「ここにいるだけでも、すごい力を感じるよ…」
「風丸…」
ベンチでもヒロトたちがそう話している声が聞こえた。
あそこにまで感じられる力…そんな力に普通堪えられるわけがない。確かに、早くしないと本当に風丸の命が危ない…!!
「円堂!!」
名前を呼ばれ、ハッと真正面を見るとそこにはサッカーボールがあった。
「!?」
反応が遅くなってしまった俺は、それを顔面に受けて軽く吹き飛ばされた。
けど、それだけでも明らかにいつもの風丸が蹴るシュートとは何が違うのがわかった。
「風丸、円堂守を…」
「…わかってる。この一撃で決めてやるさ」
風丸は銀影にそう答えると、跳ね返ったボールを再び足で止める。そして、背中の羽根を羽ばたかせ、ボールと共に飛び上がると、ボールに黒に近い紫色の闇が集まるのが見えた。
「来るぞ、構えろ!!」
鬼道がそう言ったと同時に
「くらえ…アンリミテッドダークネス!!!
そのボールがこちらに向かって蹴り込まれた。
俺はすかさずオメガ・ザ・ハンドの溜めに入るが、あちらの方が速く、間に合う気がしない。
しかし、俺とボールの間に三人の人影が入った。
「スピニングカットV3!!」
「真アステロイドベルト!!」
「ボルケイノカットV3!!」

それは、鬼道と佐久間と不動だった。
「「「っぐわああぁっ!!!」」」
三人は威力に耐え切れず飛ばされたが、シュートブロックで時間稼ぎをし、威力も落としてくれたのだ。
「三人の努力、無駄にはしない!オメガ・ザ・ハンドG5!!
続いて、俺も渾身の力で繰り出した。
しかし、風丸の必殺技の威力は予想を遥かに超えた力を持っていたのだ。
「ぐ、な、なんて力なんだ…!」
手がビリビリと痺れる。足がゴールラインの方へと押される。それでも俺は何とか粘っていた。
しかし、
「っ、うわああああぁぁぁっ!!」
俺は耐え切れず、とうとう負けてしまった。
倒れる中、スローモーションのように目の前をボールが過ぎようとしていた。
(このままじゃ、いけない…!!)
まだ痺れる腕に力を入れ、そのボールに向かって伸ばした。そして、ゴールラインを越える直前にボールを止められたのだ。
「……」
俺は何とか上半身を上げて風丸を見つめるが、風丸本人は無言のまま冷たい目で俺を見ていた。
「!鬼道、不動、佐久間、大丈夫か!?」
三人のことを思い出し、俺は慌てて声を掛けた。
その声に一番に反応したのは不動だった。
「ちっ、俺は大丈夫だ。鬼道、大丈夫か?」
そう返事すると、一番威力の高い時にシュートブロックをした鬼道へ駆け寄った。
「ぐっ、だ、大丈夫だ」
鬼道は苦しそうな声をあげているものの、不動の肩を借りて何とか立ち上がった。
「佐久間君、大丈夫?」
しかし、今だ立ち上がらない佐久間に側にいた吹雪が駆け寄った。それに続き、心配そうな顔をした源田も駆け寄る。
「はぁ、はぁ…すまない。皇帝ペンギン1号の時のダメージもあって、もう無理そうだ…。源田、後は頼むな」
「あ、ああ」
「選手交代。佐久間に代わって源田!」
佐久間がそう微笑むと、久遠監督がそう言い、緑川と南雲が佐久間を支えて立たせた。
そして佐久間はフィールドを後にした。
源田は雷門のユニフォームに袖を通しフィールドに立つが…こう言うのは悪いが、何かこう違和感をすごく感じる。
……じゃなくて!さっきので、今俺の使える必殺技じゃ風丸のシュートは止められないことは理解できた。
いや、さっきのは三人がシュートブロックしても止められなかったのだ。
それに、毎回みんなにシュートブロックしてもらっていたら、試合が終わるまで、みんなの体がもたない。だからってそのまま俺があの必殺技を止めようとしても、一撃でこの腕は使い物にはならなくなるだろう。
……となると、あの必殺技を使うしかないんだ。あれじゃないと、風丸に取り憑いた闇は消せない。それを消せれば、ボールの闇だって消滅させられ、止められるかもしれない。
そう思いながら再び視線を風丸に向けた。
しかし、既に俺に背を向けポジションに戻ろうとしていた。
「……風丸、絶対俺が救ってみせるからな。俺が、風丸を闇から守ってみせるから…!!」
そう呟いて、俺は両の拳をぎゅっと握りしめた。






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