不幸中の幸福

「今日も快晴だな。よし、仕事でも頑張って、ローン返済に打ち込まないとな!」

今日はいつもよりも目覚めがよく、カーテンを開き、部屋を照らす太陽の日差しを浴びながら拳をぐっと握った。
と、その前にまず朝食を食べに食堂に行かないとな。一日の源は朝食にありだし、なによりこのスマブラ屋敷の食事はお金を払うこともないからしっかり食べないとな。
意気揚々と部屋から出てしばらく歩いた頃だった。視界の先に見慣れた青い姿を見つけた。

「あ、おはようファルコ!」
「……ん、あ、ああ。フォックスか」

しかし、そこでふと違和感を感じた。ファルコ、心なしか鼻声だし、喉も荒れてる…?それに、壁に手をついたまま立っているなんて、あいつらしくない。

「…ファルコ、大丈夫か?」
「……何がだよ」
「具合、悪そ「んなわけねぇだろ。変な心配してんじゃねーよ」……。」

怪しい。こういう反応するときは、絶対無理してるはずだ。

「ファルコ、一度部屋に戻って体温計ろ。絶対無理してるだろ、今」
「そ、そんなわけ、ねえ…よ……」
「っファルコ!!」

俺の言葉に反論しようと壁から手を離して一歩踏み出した時、ファルコは足元から崩れるように倒れたのだ。慌てて俺が抱き留めたため怪我はないが、すぐ近くで聞こえる荒い息と熱い身体に思わず舌打ちが出そうになった。
ったく、やっぱりか…。俺達に心配させまいと頑張るのはいいが、そうやって自分自身で首を絞めるのが悪いところだっていつも言ってるのに。
俺よりも大きくはあるが、鳥であるために俺よりも軽い身体を抱き上げ、持ち前のスピードで急いでファルコの部屋に向かった。


―――――


「いいか、ファルコ。今日一日は絶対安静だからな。ベッドから下りるなよ」
「だから大丈夫だって言ってんだろ…」
「リーダー命令だ」
「……チッ」

そこまで言うと、渋々ながらファルコは起きようとすう動作を止め、大人しく横になった。
生憎、俺達は滅多に風邪をひかないため、風邪薬は準備をしていない。いや、このスマブラ屋敷にあるのにはあるのだが、世界が違うと身体にあう薬も違うため、使うのは極めて危険である。しかも、今日はドクターマリオは留守だ。
しょうがない。グレートフォックスに通信を入れて、ライラット系の風邪薬を送ってもらうしかないか…。

「ファルコ、何か食べたいものとかはないか?」
「…んな餓鬼を看病するような言葉使うな」
「う、ゴメン……」

看病とかここ最近やったことなんてないし、こういうとき、なんて言えばいいんだろ…。
まあ、とりあえずお粥くらい持ってこないと。あと林檎とか。そのついでにスリッピー達に連絡しないとな。

「じゃあ俺、一旦出るな。ちゃんと安静にしてろよ」

そう言ってドアを開けようとした時、いつもよりも弱々しいながらもファルコの声が聞こえた。

「……風邪、うつるしもう部屋には入ってくんなよ。風邪なんて、寝てりゃ治るからよ…」

その言葉を俺は聞こえなかったフリをして部屋を出た。…まったく、ファルコは……。
看病の準備をすべく、俺は廊下を駆け出した。


―――――


「ええ!?あのファルコが風邪ぇ!!?」
「馬鹿は風邪ひかないっていうのになぁ」
「コラ、ピカチュウ」
「つまりあれだろう。夏風邪は馬鹿がひくってものだろ」
「それとも、時期外れの鳥インフルエンザだったり…」
「いや、それはないわよ」
「いっつもそうめん食べてるくせになんでだろうね?」
「いや、まずそうめんで防げるのは夏バテじゃなかったか?」
「まず毎日そうめん食べてねえよあいつは」

今日の料理当番であるリンクに事情を話してお粥を作ってもらっていると、その話を聞いていた食堂にいたメンバーが口々にその話題について話しはじめた。
うん、なんだかんだ予想はできてたけど、やっぱネタにされてるな、ファルコ…。
と少し同情してから、お粥ができるまでの時間、グレートフォックスへ通信を繋げた。

《…なんだ、鳥からではなかったのか》
「……スターウルフの方と間違えたか?」
《ちょ、切っちゃだめだよフォックスー!ちゃんとオイラたちのところであってるから〜っ!》

通信を繋げると、そこにはあのレオンがいたため、間違ったのかと思い切ろうとしたが、そのスリッピーの制止の声を聞き、その動きを止めた。

「スリッピー、なんでレオンがいるんだ?まさかとは思うが…」
《私はパンサーに無理矢理連れて来られただけだ。鳥に会えるかと思ったが、まさか狐の坊やのほうだったとはな…》

あぁ、パンサーがクリスタル狙いで来たから、その付き添いってわけか。てか、誰がお前みたいな奴にファルコを合わせるかっての。

《そういえばフォックス、一体どうしたの?こんな時間にそっちから通信してくるなんて、珍しいね》
「え、ああ。そっちにある風邪薬をこっちに送ってほしいんだ。ファルコが風邪をひいたらしくてさ…」
《あのファルコが風邪ぇ!?馬鹿は風邪ひかないって……あぁ、馬鹿は夏風邪をひくほうか……》

ようやく本題に移せたと思えば、案の定の反応に思わず苦笑いがこぼれてしまった。

《うん、わかった。とりあえず後でそっちに送るね。一応、お大事にって伝えといて》
《あと、鳥に近々そっちに顔を見に行ってやるとも言っておけ》
「スリッピー、ありがとな。レオンのは聞き入れがたいけど。じゃあ」

そうして通信を切った時、ちょうどリンクがお粥を持ってきてくれた。

「フォックス、お粥できたよ」
「ああ、わざわざごめんな、リンク」
「いえ、これくらい造作もないですから。それより、フォックスのほうがこれから大変だと思いますが…」
「ん、なんでだ?」

俺が大変ってどういうことだと理解ができず首を傾げた。するとリンクは眉を少し下げた。

「ほらファルコ、あの性格だから、看病なんて必要ないって言うんじゃないかと…」
「…ああ、それならもう既に部屋には入ってくるなって言われたな。ま、なんと言われようが、押し入って看病はするつもりだけど」

気合いを入れた様に言うと、リンクは少し安心したような表情になった。

「それならよかった…。あ、でもそうなら急いだほうがいいと思いますよ。鳥って病気や風邪に弱いみたいな噂、聞いたことありますから」
「! そうなのか…。うん、ありがとうリンク。じゃあ行ってくるよ!」

リンクからお粥の乗ったトレーを受け取り、少し速足でファルコの部屋へと向かった。
当初の予定では、もっとゆっくり向かおうと思っていたのだが、リンクの話を聞くといてもたってもいられなくなった。その噂が本当なら、放ってておくことなんてできるものか。
気づけば、俺は駆け足で廊下を進んでいた。


―――――


「ファルコ、入るぞ」
「っ、だからくんなって言ったはずだぞフォックス…」

部屋の戸を開けると、先程のように布団に包まれておらず、ブラスターの手入れをしているファルコの姿があったのだ。
…やっぱ、俺がいなきゃこいつに絶対安静という行為は不可能のようだ。

「だから寝てろって言っただろ、まったく…」
「風邪うつるって言ったはずだが……」
「狐は鳥と違って、そう簡単には倒れないぞ」
「……そうかよ」

再び無理矢理寝かせると、ファルコはそう言ってそっぽを向いてしまった。

「お粥、リンクが作ってくれたけどいらないか?朝飯すら食べてないだろ」
「…腹空いてねえからいい」

なんとなく予想していた返答に、思わず苦笑した。かといって、強引に食べさせるのも悪いし、薬が届くまではよしとしよう。
近くにあった椅子を引っ張り、ベッドの横に座ると、ぽつりとファルコが呟いた。

「…いつまでいるつもりなんだ?」
「ファルコが寝るまで」

あらかじめ準備していたありきたりな言葉で返した。しかし、ファルコはこちらを振り返ることなく言った。

「つっても、ずっといるつもりだろ、お前は」
「あはは、やっぱファルコにはお見通しだな」
「……勝手にしてろ」

つまり、いてもいいってことだよな…?
曖昧な返答ではあったが、却下されると思っていたため、嬉しくて尻尾を左右に揺らした。まあ、却下されようがいるつもりだったけどさ。

「何ニヤニヤしてんだ。気持ちわりぃ」
「に、ニヤニヤなんてしてないって!」

ファルコにはなんとなく今俺がどんな表情しているかわかったんだろうな。ニヤニヤしていないわけではないが、慌ててそう答えた。
すると、ちょうどマスターからグレートフォックスから風邪薬が届いたというメッセージが来た。
…くそ、持ってくる気とかないのかよマスターは。

「ファルコ、ちょっと風邪薬取りに行ってくるな。俺がいない間も、安静に…」

しとけよ。そう伝えようとする前に、服を軽く引っ張られる感覚を感じた。今の状況でそんなことができるのは、一人しかいない。
薬を取りに行こうとファルコに背を向けていたため、ゆっくりと振り向いてみた。
そこには、いつもは予想もできないほど弱々しいファルコに、一瞬ドキッとしてしまった。いや、それだけならまだいいのだが、熱のせいで赤みを帯びた頬、荒い息遣い、そして極めつけは瞳にうっすらと浮かぶ涙。
くっ、耐えろ俺の理性っ!!

「ふ、ファルコ…どうしたんだ?俺、薬取りに……」
「……頼む、行かないでくれ、フォックス………」

いつもなら言うわけがないその言葉に心臓がはねた。
俺に襲ってくださいって言ってるのかこの鳥はっ!!

「…っ、別に、一人が寂しいとかじゃなくて……その、俺鳥だし、お前がいない間に何かあったりしたら…」ゴニョゴニョ

ようやく自分の言った言葉の重大さに気付いたため、弁解しようと顔を先程よりも真っ赤にさせながら吃る姿についつい口元が緩んでしまった。なかったことにしない分、本当に行ってほしくないんだな。

「…クスッ」
「わ、笑うなよフォックス!!」
「あ、ごめんごめん。うん、リンクやゲムヲとかに持ってきてもらうことにするよ。風邪治るまで、ずっと傍にいるよ」
「……これは、俺の本心じゃなくて…風邪のせいなんだからなっ///」
「はいはい」
「わかってんのかっ!」

それなら、風邪に感謝しないとなぁ。
でも、そこでふと思い出した。そういえば、最近はまた借金のことで頭がいっぱいであまりファルコに構っていられなかったような気もする。
うん、やっぱりファルコの風邪には感謝しないと。たまには、こーいうのもいいかもな。
ファルコの手を握り、俺は笑みを零した。


不幸中の幸福


※おまけ※
「おい、風邪薬届けに来たぞ狐」
「げっ、なんでウルフが持ってきたんだよ!空気よめよ!!」
「うるせえ。てめと鳥の二人きりなんかさせっかよ!」
「なんだと〜っ!」
「…喧嘩すんなら部屋から出てけよ。頭に響くっつーの」








スマブラの一本目は大本命のフォファルです。
にしても、内容がよくあるネタだし、口調もあまりよくわかってない感が…。しかも、ゼル伝やったことないのでなんとも言えませんが、リンクは敬語なイメージが個人的にあります。
とにかく、ファルコのツンデレがうまく書けなかったのが心残りです。

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