愛という名の消毒を

「…つる、ぎ………」

目の前で、丸い瞳がこぼれ落ちてしまうのではないかと思う程にぼろぼろと涙をこぼれ落としている神童さんに酷く困惑してしまった。
チームとしての練習を終え、今の時間は自主練習の時間だ。神童さんは確か井吹のキーパーの特訓に付き合っていたはずである。なのに何故、今、俺の部屋の隅で三角座りをして泣いているのか理解ができなかった。
とにかく、先ずは何があったが事情を聞かなければ。でないと俺だってどうしようもない。

「どうしたんですか神童さ」
「っ、ごめん…つるぎ、ごめんなさい…っ」

俺の言葉を遮りながら放たれる謝罪の言葉にも、思い当たる節があるわけがなく、謎は深まるばかりだ。
見るからに神童さん自身も混乱しているようだ。この状態では、きっと何を聞いても先程と同じ謝罪しか出てこないだろう。

「落ち着いてください、神童さん」

自身の気持ちを落ち着かせてから目の前の丸くなっている体を体全身で抱きしめ、軽く頭をぽんぽんと撫でてみる。
たぶん、こうするだけでも少しは落ち着いてくれるはずだ。
運よく俺の勘は的中したらしく、小さく震えていた神童さんの体はだんだんと震えがおさまってきた。まだ顔をちゃんと上げて、こちらを見てはくれないが。
しばらく経った頃、そろそろいいだろうと自己判断をし、神童さんとしっかり向き合う体勢となる。

「それで神童さん、一体何があったんですか?ただ事じゃありませんよね」
「………」
「黙ってもダメです。話してくれるまで、俺は動きませんよ。今回ばかりは折れませんから」

泣きながら痛々しい様子でいたくせに、あんな気になる言葉を何度もしときながら、何故答えようとしない。少し苛立ち混じりの声で言えば、観念したのか、ぽつぽつとながらも神童さんは言葉を紡ぎはじめてくれた。

「…その、井吹の特訓に付き合ってて……けど、お互い、その、ついイライラしてしまって…井吹に八つ当たりする感じで、口論をはじめて………互いにそれが激しく、なった、とき、に………」

―井吹に、キス、された。俺は、こんなにあんたのこと、思ってるのに、という言葉も、付いて。

だんだんと声が小さくなっていく中、最後のその言葉はなんとか聞き取れた。
こう言うのは不謹慎だとは思うが、少し安心した。
襲われた、なんて最悪なパターンではなかったからだ。
いや、だからといってキスされたことには変わりはない。…明日の練習では井吹の奴を締め上げる必要がありそうだ。
新技の特訓の的にでもさせるか。そう心に決めながら、俯いてしまった神童さんの唇に親指を当てた。

「今から消毒しますから目、閉じてください」
「……でも、俺………」
「誰かからキスされた程度で俺があんたから離れる理由なんてないはずだ。むしろそんなこと聞かされて歯止めがきかなくなりそうですよ」

素直に自分の言葉で伝えると、みるみる神童さんの顔は真っ赤になっていく。ほら、もう耳まで赤い。
刹那、空いている手に神童さんが自ら指を絡ませてきたのだ。
少しの間驚いていると、いつもよりはか細いが、さっきよりもはっきりとした声が鼓膜を震わせた。

「…じゃあ、そのことを忘れさせるくらい、俺の中を京介でいっぱいにしてくれ」
「おおせのままに、拓人さん」

少し冗談めかしてそう口にし、ぴったりとお互いの唇を合わせた。





井吹が悪者っぽくなってしまって申し訳ないです……いや、普通に俺、井吹好きなんですよ!プロットでは事故チューの予定だったのですが、それじゃあなんかなぁ……と悩んだ末の結論です。
ほんと、最近俺の書く京拓が別に京拓じゃなくてもいい気がしてつらい(-.-;)
一応、間に合わなかったんですが、キスの日用に書いたものでした。

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