無自覚恋愛感情
思い返せば、この一年足らずで僕は外の世界と遮断されていた9年間のあいだにどこかに落としてしまったたくさんのものをジンくんから教えてもらった。
その中に、人として当たり前に持っているはずの"感情"があった。
胸がぽかぽかと暖かくなって自然に笑みが零れるのが嬉しい、胸が痛くなって涙が出そうになるのが悲しい、全身からなにかが煮えたぎるような錯覚がして熱いものが吐き出したくなるのが怒り、心が軽くなってウキウキしたり笑い声が喉から出るのが楽しい……ジンくんがいなかったら、こんな当たり前で大切なものを、僕は取り戻せなかっただろう。
こうして昔より人間らしさをだいぶ取り戻し、ここ最近はそんな大きな人間としての欠落にも悩むことなくやっていけていた。
だけど最近、どう考えてもまったくわからないものに再び悩まされることになったんだ。
「ねえバンくん。僕ね、ジンくんのことを考えると、胸がきゅっと苦しくて眩しいものでも見るかのようにずっと直視できないのに、ジンくんをもっと見たいとか触りたいとか思っちゃって、前よりもずっとずっと一緒にいたい。今の恩返しじゃ足りないと思ってしまうんだ。……でも、こんな感情、ジンくんには教えてもらってなくて………これは、どんな感情なの?」
そんな僕の思いをストレートに目の前のバンくんに告げると、バンくんは丸い目を呆気にとられたかのように声を失ってぱちぱちと何度か瞬きをする。バンくんだけじゃない。ご飯の準備をしていたジェシカくんも、センシマンを熱く語っているヒロくんも、それに無理矢理付き合わされて流し聞きしていたランくんもこちらに視線を向け、不自然な沈黙が部屋中を包んだ。
「…僕、なにか変なこと言ったかな……?」
あまりにも気まずい空気になったことに首を傾げると、慌ててバンくんがようやく口を開いた。
「あ、いや、悪いとかじゃなくて……それよりも一つ質問していい?」
「うん、なんだい?」
「なんでその悩みをジンじゃなくて俺にきいてきたんだ?その悩むのもとはジンなわけだし、今まで教えてくれたのもジンだろ。だったらそっちの方が早く解決すると思うけど…」
「そうだよユウヤ!直接ジンに言った方が絶対いい!」
「センシマンも言ってました!思ったことは本人にしっかりとぶつけないといけないって!」
バンくんの質問にランくんとヒロくんもずいとこちらに身を乗り出して言ってくる。だけど…
「コラコラ、ユウヤが困ってるでしょ。少し落ち着きなさい」
そうジェシカくんがの間に入って二人を宥めてくれた。しかしそれに安堵したのもつかの間、今度はジェシカくんから同じ質問されてしまい、これは答えざるをえなくなってしまった。
少し抵抗はあるものの、言わないとこの悩みも解決しないだろうと自分に言い聞かせ、躊躇いがちに口を開いてみた。
「その、なんだかジンくんには直接言えないというか…この気持ちの正体がわからないうちに言っちゃダメな気がするんだ」
ただの僕の直感でしかないんだけどね。
最後の方は後込んでしまって声は小さくなってしまったけど。
「それだけじゃなくて、ジンには面と向かって言えない、って理由もあるんじゃないの?」
「えっ!?」
ジェシカくんの続いて放たれた言葉にビクリと体が揺れてしまった。あえて言わなかったのに、なんでわかって…!
そうやってあからさまに動揺を見せてしまうと、バンくんも完全に理解したのであろうか、少し苦笑いを浮かべて今にも騒ぎ出しそうなヒロくんとランくんにしーっと人差し指を立てた。
と、そのままバンくんは僕の後ろに視線を向けた。
「なんだってさ、ジン。せっかくだし、ユウヤに教えてあげてよ」
「Σ!!?」
まさかの言葉に慌てて後ろに振り向く。
そこには、少しだけ頬を赤くしながら壁にもたれ掛かっているジンくんの姿があったのだ。
「じ、ジンくん…い、いつからそこに…」
「……ユウヤが、バンくんに悩み事の内容を話しはじめたところからだ」
つまり、全部聞かれてたの!?
それがわかった途端、急に顔が熱を持ちはじめ、そんな顔を見られるのが恥ずかしくなり慌てて俯く。
心臓も煩くバクバクと大きく鼓動し始め、もう自分のことだけで精一杯になってしまう。
「…ユウヤ」
いつの間にか静かに足音を鳴らしてジンくんが僕の目の前に来ていた。そして片膝をつき、温かな右手を左の頬に添えられ、目線が交わりあってしまった。
バンくんたちは空気を読んだのか部屋の中にはおらず、静けさが僕らを包み込む。
名前を読んだきり、ジンくんは何も言ってくれない。こんなに近くにいて触れ合っているのに、僕らの時間だけ世界から取り残されてしまったかのような錯覚に陥る。
それがとんでもなくもどかしく感じて、僕の頬に触れているジンくんの右手に、そっと僕の左手を重ねてみた。
「ジンくん…僕、ジンくんのことを考えると、胸がきゅっと苦しくて眩しいものでも見るかのようにずっと直視できないのに、ジンくんをもっと見たいとか触りたいとか思っちゃって、前よりもずっとずっと一緒にいたい。今の恩返しじゃ足りないと思ってしまうんだ。……でも、こんな感情、ジンくんには教えてもらってなくて………これは、どんな感情なの?」
バンくんに言った言葉を、今度はジンくんに直接伝えてみる。
今だって体中が熱くて、心臓が激しく鼓動して、ジンくんを見つめていると涙が零れそうなんだ。
そんな僕をあやすかのように、ジンくんは僕の頭を空いている左手で優しく撫でて緋色の瞳を優しく細めた。
「ユウヤ、それは"好き"という感情だ」
「え、でも僕、バンくんもヒロくんもランくんも…みんな大好きだよ。なのにこんなの、ジンくんにしかならないよ」
小さく首を傾げると、ジンくんは口元を綻ばせて心地好い低音を響かせた。
「ユウヤのバンくんたちへの"好き"は友好に部類されるものだが、僕への"好き"は恋愛感情の"好き"に部類されるものだ」
「恋愛、感情…」
その言葉が僕の穴だらけの心の中に落ち、ストンと心の穴を綺麗に埋めた。好き…恋愛感情……僕は、ジンくんのこと、仲間とか恩人とかの意味じゃなく、恋愛として好きなんだ………。
自覚した瞬間、ぶわりとジンくんへの愛しさが雪崩を起こして僕の全身を駆け巡る。
耳元で囁くように「僕もユウヤと同じだ」なんて優しく言われてしまえば、耐え切れなくなってしまい、目の前の海のように広い心の彼に抱き着くしかなかった。
ユウヤは4歳の事故以来、9年間もイノベーターの実験体としてしか生きてこなかったわけだから、感情はそこでほとんど落としてしまったんじゃないかと思います。アルテミスの時だってサイコスキャニングモードで暴走するまで、ずっと無表情だったし。だから、ジンがユウヤにそういうことをすべて教えてあげてればいいな、と。
それよか口調あやふやすぎて…orz
とりあえず、バンはジンユウちゃんに対しては相談に乗ったりとか、サポートしてくれてそうです。
てかWを見直して思ったのですが、やっぱジンもユウヤも恩人とか同じ境遇だからとかだけじゃないもっと深いものがあるんじゃないかなとか思って止みません。
いつかシリアスも書いてみたいです。とにかくユウヤに「僕はジンくんと立場が逆だったらよかった、なんて一度も思ったことないよ。だって、僕はジンくんみたいに強くないから、今の時間を一緒に過ごせてないかもしれない。ジンくんにあんな辛い思いをさせたくない。なにより、今の幸せな時間を失いたくないんだ」みたいなこと言わせたいです。基本的にジンがユウヤを救う展開が基本形で好きですが、逆にそれで悩んでしまうジンをユウヤが救ってあげるのもすごい好きなんです。書けないけど!!←
…ああ、もういろいろと纏まりません(^_^;)