二人で共有する幸せ

「見せたいものって、なんですか?」

神童先輩に見せたいものがあると言われ連れてこられたのは、大豪邸に相応しいほど大きな庭であった。
真冬の2月であるため、肌に当たる風はまだまだ冷たい。そんな中、一体何があるのだというのだ。
首に巻くマフラーに顔を埋めつつ、前を歩く神童先輩の背中を見つめた。
と、とある一本の木の前でその歩みを止めた。
その木は他の木々とは違い、高さは神童先輩と同じくらい。いや、それよりも少し小さく、真っ直ぐとした幹でもない。だが、その木には点々と小さな白いものが付いていた。

「これが見せたいと言っていたものだ」
「これは……?」
「梅の木だ」
「…?」

全く予想もしていなかった答えに、首を傾げることしかできなかった。
というかこんな洋風な豪邸の庭に何故梅?ミスマッチにもほどがあるだろう。

「今、不似合いだと思っただろ?」
「…ま、まあ……思いました…」
「いや、気にしなくていい。昔霧野にも言われたからな」

いつもの眉を下げた困った笑みを浮かべる姿に、なんとも言えない罪悪感が込み上げ「すいません」と頭を下げた。

「いや、本当に気にしなくてもいいって。父さんはこんな家を建てたくせに、結構刀や壷といった骨董品を集めるのが好きだったりするから」
「…だから信長の刀を探していたとき、あんなに目がこえてたんですか」
「そうか?」
「いえ、普通わかりませんって」

そうなのか?とこてんと小さく首を傾げるのを見て、口から漏れそうになった溜め息は喉の奥に引っ込んでしまった。あーこの天然坊ちゃんは!!

「…それより、なんでこの梅を見せたかったんですか?」
「ああ、そうだったな」

すると、神童先輩は目の前の梅を優しい眼差しで触れ、穏やかな声で言葉を発した。

「この梅は、俺が生まれた時にここに植えられたものなんだ。去年まで元気がなくてあまり蕾も花もできなかったのだが、俺の気持ちと比例するように、今年はこんなに沢山蕾をつけたのが嬉しくて。剣城にも見せたかったんだ」

去年といえば、フィフスセクターがまだ存在しており、キャプテンだった神童先輩も、まだ管理サッカーという現実と自由なサッカーがしたいという気持ちの板挟みであった。
でも今はフィフスセクターもなくなり、自由なサッカーができている。神童先輩も見るからに以前よりも明るくなったと、出会ってから一年も経っていない俺でもわかる。
だから、自分と一緒にここに命の根をはり、一心同体のようなこの梅の姿が嬉しかったのかもしれない。
だがそんなことよりも、俺にそんなことを教えてくれたことが、俺自身は何よりも嬉しかった。
話を聞いている限り、この梅の存在は幼なじみである霧野先輩には教えているようだが、きっと今回のことは一番最初に教えてくれたのだと思う。
それだけ、短い期間でこれほど親密な関係になれたことが嬉しかった。

「…神童、先輩」
「なんだ、剣城?」

伝えたい言葉が喉から込み上げ、名前を呼ぶと、梅を見つめていたキャラメル色の瞳が、振り返ってこちらを見つめる。
ドキリと心臓が大きく鼓動するが、それに気づかないフリをして言葉を続けた。

「…お、俺が、その、神童先輩の隣に居続けて……その梅の花にも、これからずっと、沢山の満開の花を、咲かせてみせて、いいです、か……?」

最後の最後に恥ずかしくなり、語尾が小さくなるうえに疑問形になってしまった。
くそっ、なんでよりにもよって…!
熱が集まった顔を見られたくなくて視線を横へ反らした。
しかし、ポケットへ入れていなかった左手に温もりを感じ、大袈裟に肩が跳ねた。

「ありがとう、剣城。じゃあ、これからもよろしくお願いします」

ふにゃりと効果音がつきそうな幼さの残る満面の笑顔に、身体全身が沸騰するような錯覚に陥った。
それはこっちの台詞だ、という思いは声になることなく、空気に溶けて、北風が暖かな春へと連れていったのだった。





三割ほど実話からです。
俺の家の小さな庭には、姉と俺が生まれた時に植えられた梅が二本あるのですが、祖父が言うに、数年前、自分が精神的に不安定だった頃は俺の梅も元気がなく、花も蕾も全然できなかったそうです。でもここ最近、俺も気持ち明るく過ごせたからか、今までで一番多く蕾がついたそうです。
それが自分と一心同体になっているみたいで嬉しくて、書いてみちゃいました。
…でも結局三割しかいかせてないうえに、いつもの京拓より剣城が若干ヘタレ気味なところしか変わってない……orz

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