夜が訪れるころ、ふたりは闇の中で立ち止まっておりました。
 太陽は既に地平線の彼方へ沈み、空には濃紺の帳が降りております。
 普段地上を見守っているはずの月も星も、今日はなぜか見えません。

「怖いわ」

 少女はそう呟くと、一人自分を抱きしめました。
 濃い闇の満ちる世界に少年の姿は見えず、自分だけになってしまったような錯覚が襲います。
 恐ろしくなって、思わずしゃがみこみました。このまま朝が来なかったら、そう思うと涙が溢れました。

「大丈夫だよ、僕はここにいるよ」

 そう少年の声が聞こえたかと思うと、腕に温かい手のひらを感じました。
 少年は立っているようで、少し上に引っ張るように腕を掴んできました。

「見て、あそこには光がある」

 前を見て、そう言われたとおり顔を上げると、道に点々と光る植物が見えました。
 足元をよく見れば、草の隙間から光るきのこが顔を出し、淡い光を発しておりました。
 まるで地上にこぼれた星のように、小さな小さな燐光が揺れています。
 闇に目が慣れてきた少女は促されるまま立ち上がると、ふと、宙を舞う蛍を闇の中に捉えました。

「川の音」
「水の音がするね」
「この先に花畑はあるかしら」
「水があるのだから、きっとあるよ」

 よくよく見渡せば、空に光はなくとも、地上に微かな光がありました。
 お互いに相手の顔が見えなくとも、ふたりは手をつないで再び歩き出しました。



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