滅びを迎え始めた世界はひどく哀しげに見えました。
少年は少女の手を引いて、森を抜け、谷を過ぎ、川を渡ってゆきます。
優しい光を振りまいていた太陽は、心なしか弱く感じました。
「私はどこへ向かうの?」
「君が行きたいところへ」
「私の行きたいところ……?」
歩き疲れた二人は草原の真ん中で座り込みます。
見上げた青空は微かに暗く、濃紺の空に灰色の雲が流れてゆきます。
冷たい風が二人を優しく撫でました。微かに花の匂いを含むそれは、少女の心を動かしました。
「私、花を見たいわ」
「花かい?」
「ええ。私たちの村に花は無かったわ」
「そうだね。じゃあ、花畑を探そうか」
少年は世界が今どうなっているのかを知っていたので、少女のささやかな願いを叶えることができるのか少し不安でした。
しかし自分のわがままで連れ出してしまったようなものであり、それが贖いになるのならどんなことでもするつもりでした。
花の香りがふわりと伝わってきた方向、風の吹く方向に顔を向けます。
今まで歩いてきた道のもっともっと先から、風は吹いてくるようでした。
見上げてももう眩しくない太陽が傾いてしまう前に、早く草原を抜けたほうがいいでしょう。
少年は少女の手を引いて、花畑を目指して歩きます。