あるところに少年と少女が暮らしておりました。
 世界の移し子と呼ばれていた少女の傍で、少年はただ、彼女と彼女である世界を愛し、幸せに暮らしていくはずでした。
 世界の楽園と謳われるこの大地に抱かれ、いつまでも、いつまでも。
 しかし、幸せは手折られる花の如く鮮やかに消えていくものでした。
 
 少年は、世界に絶望しました。

 いつからか空から降りそそぐ光が弱まり、世界各地で災害が起こるようになりました。
 実り豊かな大地は衰え、動物達は死に絶える。海は汚れ泉が濁り、森林が枯れていくのでした。
 空に輝いていたはずの星の光が、ひとつ、またひとつと、日を追うごとに消えていきます。月の光は変わらず、真っ白な顔で地上をただ見下ろしておりました。
 しかしそれらは、ただの予兆にすぎませんでした。
 少しずつ衰退していく世界に成す術無く、この星と共に消えていく人間達は、悲劇を喰いとめる唯一の方法を思いついたのです。
 その矛先は罪の無い少女へ向かいます。
 村の大人達が大きな家に集まり、話しているのを少年は聞きました。

「なぜこんなことが」
「きっと、世界は愛娘を返してほしいのだ」
「ならば返してしまおう」
「では明日、あの子をここに呼んで、殺してしまおうか」
「可哀想じゃないか、いくらなんでも」
「何を言う。全ての命と一人の少女、どちらが大切なんだ」
「あの子は元々世界なのだ。たとえ死んだとしても、俺達と共にあるだろう」

 無慈悲に決められていく様子を、少年は少女が消えてしまう恐怖と共に聞いているだけでした。
 明日、あの子は殺されてしまう。
 何故、優しい子が。罪の無い子が・
 そんな思いが胸の内にふつふつとわき上がると、彼は居てもたっても居られなくなりました。村中を駆け巡り、何も知らずに薄暗い空を見つめる少女を見つけると、細い腕を掴んで走り出します。
 空は暗くなってゆきました。ぽつぽつと星が輝きだし、月が昇り始めたころ、少年と少女は村の外に広がる、暗い森の中を走っておりました。
 痛い、どうしたの、と言う少女は振り返ります。生まれ育った村がどんどん離れてゆきました。先を走る少年は自分の声を聞いてはくれません。ただ少年に引かれるまま、走り続けました。
 いくら走ったことでしょうか。疲れた少年と少女は森の中で休息を取ることにしました。

「どうして私を連れ出したの」

 少年は少女に理由を話します。すると彼女は

「そう」

 とだけ言うと、もう眠いと告げて地面の上に身を横たえました。
 少年はその隣に腰を下ろし、目を瞑る少女の顔を見つめます。白く小さな顔は既に夢を見ているようで、死んでしまったように穏やかでした。
 少女が眠る間、少年は煌めく星を見上げ、朝が来るのを待ちました。今頃村は大変な騒ぎでしょう。けれど、少女が死ぬなんて考えたくもありませんでした。
 いつしか月が山際に眠りにつき、空が白んでゆきます。太陽と共に輝く朝焼けは、ひどく優しく哀しい光を帯びて、少年と少女を照らし始めました。




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