全てを背負って死ねと言われた。
 生命の光を散らす幻想の森の中。
 いずれ枯れる、死の森の中。
 回らない頭に呪詛が反響する。思考は霧がかかったようにぼんやりとしていて、考えがまとまらなかった。
 生きる屍の如く、夢遊病のようにふらふらと森の中を彷徨う。仲間達は皆眠りにつき、彼女の行動に気がつかない。
 死ね。死になさい。
 世界のため。人のため。
 命を。心を。
「…………」
 なんて非情な、そして真摯な言葉だろうと思う。
 世界を救う英雄譚にしては至極単純で、簡単で、ありきたりな展開だった。
 案外世界というものは、シンプルにできているらしい。自分の死で世界が救えるなら、一人の命で全ての命が買えるなら安いぐらいだ。
 破格の救済。しかしそれを迫られて、はいそうですかと頷けるほど彼女は英雄でも聖女でも、ましては破滅的ではなかった。
 かさり、こそり。
 草を踏みしめて、夜空を見上げる。どんなに運命を拒絶したとしても、いずれこの空を見ることはできなくなるのだ。
 立ち止まるには遅すぎた。考えるには明白すぎた。
 自分は、死ぬしかないのだ。
 そこに価値を、名誉を見出すことはできない。
「…………」
 この事実を仲間達は知らない。打ち明けたとして、生きていて良いと断言される自信がなかった。彼女の死を受け入れなければ、どのみち皆死ぬのだ。
 八方塞がりな状態。後ろも前も消滅が口を開けている。理不尽なシナリオに思わず涙が浮かんだ。
 どうして、私なのだろう。
 叫びたかった。訴えたかった。誰かに、生きていて良いと言われたいと思ってしまった。
 いっそ殺されるなら、世界でも、人でもない、自分に、と思ってしまった。
 隠し持っていた短剣に手が伸びる。今ここで胸を貫いてしまえば、苦しみから解放される。
 震える手が伸ばされ、そして下ろされた。
 結局、自分は死から逃げることはできない。
「は、はは……」
 へたり、と枯れ草の上に座った。蛍のような光が風に舞い上がり、ふわりと舞った。草のひんやりした感触と乾いた音がした。
 私は、何をしているのだろ
 虚ろに視線を前に向ける。木々が露に濡れ、月の光のように白く輝いていた。同じく彼女の瞳から月の雫が溢れる。
 温かな雫が頬を伝った。命の温かさが余計、悲しさを増長させた。
 そうだ、死ぬのなら、世界のために。
 全て無くなるのなら、何か残せたら。
 悲しみが洗い流され、胸には決意がむくむくと頭をもたげた。
 彼女は涙を拭くと、きっと顔を上げた。
 綺麗すぎる言葉で自分を奮い立たせ、信じ込ませる。
 その想いは嘘ではない。
 一人星空の下、悲しみを奇跡に変えたいと幾度も願った。
 たとえ何度も繰り返された物語だとしても、この先に破滅しか待っていないのだと知っていても。
 彼女は決められた終焉に向けて、歩く以外に無かった。



走って走って着いたその先は
(多分、悲劇)
(by千歳の誓いさま)