小説 | ナノ


▼ 美しい空の下で

 黄金いろの空が眩しい。
 白い壁の校舎が揺れたかと思うと爆発音が響いた。
 廊下をかける足音、飛び散る火花。
 校庭を見れば、制服を着た生徒と白い服を着た美しい天使たちが人の魂を賭けて争っている。
「おー、今回も派手ね」
 黒い悪魔の翼をもつ茶髪の少女、斬桜姫火(きざくら ひめか)は窓枠に腰をおろし、愉快愉快と笑いながらその光景を見降ろしていた。
 腕に絡めた鎌を撫で、残酷な笑顔とともに天使たちを見やる。
 と、乱暴に教室の扉が開かれた。
 振り返ると、彫刻のような顔立ちの天使たちが三人ほど、光の剣を持ち優しい笑顔を浮かべ、姫火との距離を縮めていった。
「thは、tgぐr」
「あはは、ごめん。天使語をまともに勉強してないから何言ってるのか分からないや」
 不快な機械音のような言葉を発する天使たちは、体に泥が詰まっているかのような不気味な動きで、姫火に掴みかかった。
 だが、
「甘いねぇ。翼をもつのは私も一緒よ?」
 するり、と滑るように姫火は窓の外へ体を投げ出すと、およそ15階の高さから地面へ重力に逆らわずに墜ちた。
 天使たちの手が先程いた教室の窓から飛び出してわらわらと動いていた。
 落下しながらも姫火は体勢を整え、悪魔の翼で羽ばたくと校庭に花弁のようにふわりと着地した。
「空音、来たよ」
「……遅い」
 姫火は蒼黒い髪の少年へ声をかけた。
 彼、蒼井空音(あおい そらね)は手にしたナイフで目の前の天使を倒すと、ゆらりと感情のこもらない瞳を少女へと向ける。
「今回は何人ぐらい?」
「30人。もう半分は倒した」
「オーケーオーケー。上等だね!」
 ぶん!と鎌を振り回すと周囲の天使たちが飛退いた。
 姫火の攻撃範囲に入らないところに移動した空音はナイフを構え、姫火越しに天使と対峙する。
 奇麗な装飾に安っぽいリボンやキーホルダーのくくりつけられた大鎌は少女により軽々と扱われ、天使の白い衣を切り裂き、赤い血を流させる。
 敵陣へ走り込み多くの敵を薙いだ姫火の隙をついた一人の天使が、背後から彼女を切り裂こうと大剣を振り上げた。
 そこへ空音の投げるナイフが飛び、天使の手首を貫通すると強引に鎖を引いて華奢な体を倒す。
「姫火、どいて」
 大きく飛び退く姫火。
 そこへ何本ものナイフが鎖の尾を引いて放たれ、天使の体を貫いた。

 ごーん、ごーん。

 とどめを刺そうと姫火が飛びあがったとき、空から荘厳な鐘の音が響いた。
 同時に赤い体液を流しながらも笑みを浮かべる壮絶な表情の天使たちが一斉に顔をあげ、大きく空へ躍り出た。
 戦いの終わりを告げる鐘。
 黄金の雲の切れ間から差し込む清らかな光の中へ、白い天使たちが帰る。
 ナイフを引き抜いた空音も姫火とともに空を仰ぎ、冷たい表情を向けていた。
「終わったね」
 鎌を振るい、血液を払うと姫火は鎌をしまい、携帯のストラップに戻した。
 大きな鎌を持ち歩くために姫火はこうしてストラップに姿を変えているのだ。
 空音もナイフを袖に引っ込め、ズボンについた泥を払った。
 姫火と違いずっと闘っていたのであろう、彼の腕や手は切り傷だらけであった。
 が、それもすぐにぐにゃぐにゃと皮膚が歪み、蝋のように治ってしまう。
「いつまで……続くんだろ」
「うーん。私たちがいなくなる日まで、じゃない?」
 不安そうな(表情を変えないため分らないが)空音に、姫火は明るく笑いかける。
 感情を持たぬ死神たちの中で、ころころと表情を変える異端の少女。
 彼女は人間のように振舞いながらも、なによりも死神らしかった。
「教室へ戻ってください。繰り返します、教室へ戻ってください」
 機械のアナウンスがそう告げると、周囲の死神たちは人形のように校舎へ足を向けた。
 光のない瞳を向け、各々が出していた武器を引っ込めると何も話さずただ足音だけを響かせて。
「あーあ。午後は数学だよ」
 休みになればいいのに、と頬を膨らませ、先を歩く姫火。
 そんな少女の見慣れた後ろ姿を見ながら、空音は悪魔のしっぽを一回振るとくすりと笑った。





美しい空の下で
(永遠に続く終わらない争い)



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