小説 | ナノ


▼ 片思いモドキ

(※もとめ様のお子様要素があります)


 ありふれた日常を切り取った、ありふれた写真のような風景。
 変わらない毎日と真っ白なヘッドフォン。
 鳴り響くのは電子の歌姫の唄う機械音。
 夕暮れ時、河原にて。
 きらきらと日本人離れした色素の薄い髪と目を持つ少女は、真っ白なヘッドフォンで耳を塞ぎ、家に帰ろうとしていた。
 ポケットに入った一粒の飴玉を取り出しては、『彼』に思いを馳せていた。
 自分よりも年上の彼。
 とてもとても、優しい人。
 すぐに怒るけれども、その表情がたまらなく可愛らしい青年。
「……会いたい」
 少女は胸に広がる感情に名前を付けられないまま、それを弄んでいた。
 ボクはなぜ、こんなにもあの人のことで頭がいっぱいなのだろう。
 宇宙のこともUFOのことも考えていても、あの人が離れない。
 満天の星空の下、あの人と出会った日のことも忘れられない。
 夏の匂いがした。
 虫が鳴くこの河原で。
 ほのかな月明かりの下でぽつぽつとわずかな言葉を交わしただけ。
 ただそれだけなのに。
「会いたい」
 もっと話してみたかった。
 星のことも月のことも。
 もっと触れてみたかった。
 髪も肌も服も。
 もっと聞いてみたかった。
 声も言葉も感情も。
 何も感じなかった胸がざわめく。
 うるさいほど音量を上げていた音楽プレーヤーの電源を切って、ヘッドフォンを首にかけた。
 河原の草の上に座り、川に反射するオレンジの光を見る。
 あたり一面、きれいな橙色。
 車も人もめったに通らない、寂しい所。
 風の音に混じって遠くで踏切が鳴っていた。
 彼女は不意に肩にかけていた学生鞄を膝の上に下ろし、天使の羽のキーホルダーのついた真っ白なデジタルカメラを取り出した。

 カシャッ。

 沈む太陽を一枚、撮る。
 ありふれた日常を切り取ったありふれた写真。
 特別な思いと一緒に封じ込めた思い出。
 胸の疼きとともに見ればそれは格別なものになる。
 いつか、この感情は薄れてしまうから。
 覚えておきたいんだ。
 この疼きと一緒に見た景色が素敵だったということを。
「……奇麗だ」
 景色も空も夕暮れも。
 ちっぽけなこの町にさえ愛着が湧いてしまう。
 今までずっと興味がなかったのに。
 身近に存在する全てが愛おしい。
 あの人に出会ってから。
 レンズ越しに夕暮れを見つめていると、空が次第に暗くなっていることに気が付く。
 少女の後ろの空では一番星が輝きだしていた。
 今日も星を見よう。
 天体望遠鏡を片手に。
 きっとあの人も見ている空を見よう。
 ヘッドフォンを装着し、爆音で歌を流しながら立ち上がる。
 鞄を肩にかけなおしてスカートを払った。
 少しだけ冷えた風が額を滑り、少女のネクタイをなびかせる。
 デジタルカメラで撮った夕暮れを一度確認し、鞄に滑る込ませるとまた歩き出した。
 明日も、会えるといいな。

 片思いモドキ
(胸の疼きを写真に封じて)

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もとめ様のサイト『ノットイコール』に参加させていただいている水渡流乃のお話でした。

もとめ様に許可をいただいて、もとめ様のお子様、寝屋川恋造君を登場させていただきました。

どこにいるかって?作品中の青年や彼やあの人は恋造君ですよ。(設定で流乃は片思いしています)
もとめ様、許可をありがとうございました!


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