第二部 | ナノ


▼ 第十二楽章〜双子義賊〜

 犬歯をむきだして睨む金髪の少年、同じく剣を構える少女。
 背後には手負いのリュシアン。
 下手に動けば、確実にこちらが負けてしまうだろう。
「なんでっ……! なんでお前にその剣が抜けたんだよ!」
 考える間もなく少年が叫ぶ。同時に少女が舞うように剣を振るった。
 突如雷鳴が響き、セナの頭上に黒い雲が集まりだす。冷たい魔力の波動が一気に溢れ出した。
 耳が割れてしまうような、激しい音と光が部屋を満たす。セナとリュシアンの立っていた場所が抉られ、黒く焦げ跡を残すような、雷の魔術。
 それが発動する前に、セナは攻撃を受け止めるように剣を前に出すと、瞬間的に地面に魔法陣を描いた。
 がしゃああん!
 薄い防護壁越しに雷が弾ける。石鹸液のような虹色を湛える魔力の壁が半円状に展開され、少女の魔術から二人を守った。雷は防護壁を伝い地面に流れると周囲に放電されていく。
「なっ……! 防護魔術なんて!? どうしよう、敵うわけないよぉ!」
「どうせ一人は戦力外だろ! このぐらいなんとかなるだろ!」
「でもっ」
「でもじゃない!」
 少女の方が涙目になり、首をいやいやと振った。戦意喪失してしまったらしく、剣を構えているものの、体にきちんと力が入っていないようだった。逆に少年はまだやる気のようで、少女を必死に鼓舞している。
 その間に、セナは防護壁を張ったままリュシアンの方に顔を向けずに言った。
「魔石を使ってください。あの程度ならしばらく持ちますから」
「分かった」
 彼が魔石で回復するまで、ここを守っていればいい。防護壁に意識を集中させ、少年達の様子を注意深く見つめた。少女の方はもう逃げるつもりでいるのか、剣を下ろそうとしているのが分かる。
「クソッ! エルがやらねーなら俺が!」
「フェル!」
 少女の制止に耳を貸さず、少年は剣を構えると走ってくる。元々魔術用の防護壁は、物理攻撃を完全に防げるわけではない。いくら魔術を弾けたとしても、適当な打撃で脆くも破られてしまう。耐えるためにセナは生命力の変換をできる限り最大出力にして、防護壁を強化した。
 ガンっ!ガンっ!と剣が防護壁を叩く。その度、体には痛みはなくとも鈍器で殴られたような衝撃が走る。たった数秒で、既に細いひびが入り始めていた。
「っ!」
 少年の背後で少女が剣を振ると複数の火球が飛び出し、防護壁を攻撃した。ひびが広がり、次第に壁が歪み始める。
(もう少し…! もう少し耐えなくては!)
 目の前が赤くなり始め、体は変に熱を持ち始める。嫌な汗が背中を伝い、過剰な変換により頭がずきんと痛んだ。
「砕けろぉ!」
渾身の力を込めた剣が振り下ろされた。澄んだ音をたてて、防護壁が硝子のように砕け散った。
 剣先が胸を貫く前に、背後から伸びた腕に庇われる。抱くように体を引っ張られ、少しざらつく地面を滑って回避した。
「さんきゅ! お陰で治ったぜ」
 そう言ってリュシアンは飛び起きると、少年の剣を腕に装備された鉄板で受け流した。一瞬で魔石を使ったのか、彼の腕はうっすらと輝きを帯びており、超人的な力を発揮しているようだった。
「甘いね、おにーさんっ!」
「させません!」
 リュシアンの背後を狙った火球を水の壁で打ち落とすと、セナは少女に向き合った。先ほどの迷いは仲間の負傷で既に捨て去り、いかに打ち勝つことが第一となっていた。
 少しだけ怯えの走った少女の顔に目もくれず、セナは剣を構えて走る。同時に僅かな詠唱を終え、魔法陣を足元に一瞬だけ浮かばせると、足元から風を呼んで高く飛び上がった。
「!!」
 予想外の出来事に動けなくなった少女に剣を振り下ろす。先ほどの魔術の作用で風の刃を纏い長くなった剣先が少女の腹を掠めると、横に吹き飛ばした。倒れた少女の首に剣を向け、身動きを取れなくする。
「惜しかったですね」
 少女は悔しそうに唇を噛むと、降伏するように剣を手から離した。かしゃん、と高い音を立てて金色の剣が滑り落ちる。それが合図になったように、リュシアンと対峙していた少年がこちらに顔を向けた。
「エル!」
「ほら、仲間はもう戦わねえぞ?」
 少年が気を取られた隙にリュシアンは足をすくい、地面に倒した。そして少女とセナに聞こえないような小さな声で、そっと唇を動かして言う。
「お前が暴れたらどうなるんだろうな?」
「…………!」
 リュシアンは少年の体を拘束するまでもなく、そう言って離れた。少年はしばらく倒れたまま考えた後、起き上がると剣を鞘に収めた。


1*5

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