小説 | ナノ




01







「好き。」

風が冷たかった。吐く息が白くなり始めていて、少し厚着をしていった朝のコンビニのことだった。


珍しく休日に早起きをして、たまたまコンビニでしか売ってないスナック菓子が食べたくなって、たまたま気が向いたから朝のコンビニへ出かけた。

ただの気まぐれだった。

そしたら、部長がコンビニの中からから出てきて、コンビニの袋を下げていた。部長が朝のコンビニにいるなんてイメージがなかったから驚いたが、軽く頭を下げて通り過ぎようとした。すると「財前」と名前を呼ばれ、後ろを振り返った。そして部長が放ったのが、冒頭の言葉である。

俺は、一秒くらい頭が真っ白になった。その時間が俺には一秒より長く感じられた。
更に俺は何を言うのか考えるのに時間を要した。どのくらいの沈黙だったか、俺にはもはや分からなかった。
ただ部長はおかしそうに笑ったから、俺は余計戸惑った。部長が笑っているから冗談なのかもしれないと考えたが、どうもそうは思えなかった。それは周りが静かなせいかもしれないし、部長の性格からしてそういう冗談はないだろう、と思い込んだからかもしれない。

それはまぁやっぱり俺の思い込みでしかないのかもしれないが、そんなことまで考えることはできなかった。

俺が何か言葉を発する前に、部長は俺に背中を向けて歩き出してしまった。俺は追いかけることもせずに、部長の姿が見えなくなると俺も前を向きコンビニの中へ入った。店内が暖かかったせいか、先程に増して頭がぼーっとした。


この寒い季節になって、俺と部長の関わりはほぼ無かった。こうして部長と呼んでしまうけれど、実際はもうあの人は部長ではない。部長はもう、というか、三年生はもう部活を引退しているので、今まで大きかった部活での関わりがなくなってしまったのだ。

となると、俺は今の三年生と話す機会も会う機会も減る。先輩らがときどき部活の様子を見に来るときぐらいしか満足に話せない。

つまり、あの「好き」に対して俺の考えがまとまったとしても、あちらから会いに来ることがなければそれは伝えられないのである。

俺から行くべきだとしても、教室になんか行きたくないし、家になんかもっと行きたくない。というか家なんて一回くらいしか行ったことないから覚えていない。
アドレスも電話番号も知ってはいるが、ほとんどしたことがない。
「好き」がもし冗談だったとしたら俺はなんか恥ずかしい思いをするし、本気だったら困る。

俺はせっかく朝早くのコンビニで買ってきたスナック菓子を食べる気にもなれず、せっかくの休日をもやもやとした気持ちで過ごした。



「部長って、」
「白石んこと?」
「はい。」
「どうかしたんか?」
「いや、別にそういうわけやないです。」

相談してみよう、と謙也さんに話を聞いてもらおうとしたものの、よく考えてみれば部長に好きと言われたなんて謙也さんにだって言えるはずがなかった。

「なんやねん。」
「いや、彼女とかいないんかなって。」

謙也さんの頭にクエスチョンマークが浮かんだ。(気がした。)そりゃそうだ、いきなりこんなことを聞けばそうなるよな、と我ながらに思う。謙也さんは不思議そうな顔をしながらも眉間にしわを寄せながらせやなぁと考え始めた。

「告白とかされとるみたいやけど…誰かと付き合った話とか聞いたことないな。」
「ふーん…」

まぁそんなことがあれば本人達が隠さない限り噂になるだろうけど。

「恋バナとか聞いたことないしな。」
「AVとか見なさそうな顔してますもんね。」
「まぁあいつ、女に挟まれとるからなかなか家でそういうんしにくいんとちゃう?」
「見たことないんですかね。」
「いやそれはないやろ…多分…」

ほんま何かあったん?と聞いてくる謙也さんに「別に」と返事をした。嘘だと見破られているだろうが、謙也さんもそれからしつこくは聞いてこなかったのでその話は切り上げた。

「せや、明日皆で部活見に行ってええか?」
「えっ、」
「え、あかん?」
「いや、別に…」

どうしようか、俺の考えを伝える機会がないと悩んではいたものの、機械が訪れても考えがまとまっていなければ仕方がない。
けれど、断るのも躊躇われて、わかりましたと承諾した。





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