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永遠の巣

※暗い



ぱた、と、白石の目から涙が零れた。どうして?とも聞かないけれど、俺はその涙をぺろりと舐める。しょっぱい。でも白石のなら舐めれる。白石だから。
ぴくんと動いた白石を見つめると、濡れた瞳で俺を見つめ返す。なに?とも聞かないけれど、俺を見つめる白石ににこりと笑いかける。
すると白石も控えめに笑った。

寒い、そやな、寒い、そやな、と繰り返してはお互いを温めた。同じくらいの身長の俺達が抱き合っているのはおかしいのかな、そんなのは知らない。だって、俺は白石が好きで、白石は俺が好き。この思いが綺麗なものだとは言わない。男女間のそれと同じように、ときめいて、悲しくて、強い独占欲があって。性別の壁が厚いとも、薄いとも分からないが、俺は白石が好きなんだ。白石も受け入れてくれた。

好きや、好きや白石、と囁くたびに、俺も好き、好きやで謙也、と笑ってくれるのだ。白石がどうしようもないくらい好きなのを、周りに理解してもらうとか、思っていないし、けれども、俺達は結構周りには恵まれていた。部員も、理解があった。何度も助けられた。もしかしたら、あいつらがいなかったら今こうして白石と一緒にいれるかも分からない、喧嘩したとき色々してもらったからな。

白石はまた涙を零していて、しゃあないやつやなぁ、と呟いて、涙の伝わる頬に舌を這わせた。けんや、けんやと弱く俺の名前を呼ぶ白石をきつく抱きしめてうん、と何度も返事をした。ここにいるんだ、俺は、白石のそばにおる。

理解を、求めているわけじゃない。
でも、理解してもらえるなら、理解してもらいたい。だって、恋なんてしようと思ってするものじゃないと誰かが言っていたように、白石を好きになろうと思ったわけではない。この俺の腕の中で弱くなる白石は俺の中で、いつの間にか、どうしようもないくらい愛しいものとなっていたのだ。後悔もないが、良かったとも思わない。

「けん、や、」
「ん…?」

嗚咽を交えた白石の声にやさしく返すと、白石の手は俺の服をぎゅっと掴んでまた名前を呼ぶ。俺の前でだけ見せる涙に、優越感を抱いていた。きっと白石は、聖書という名を持つと同時に、それに縛られていたのだろう。完璧なんて、白石は中学生で、俺らと同じで、って、ちゃんと気付いたのは、恋人になってからだった。なんだか今日は、色んなことを思い出す。こういう感じの、なんだっけな。

「謙也、好きや、ずっとずっと、好き。」
「俺も、ずっと白石が好きや。」

ずっとなんて、10年ちょっと生きただけの俺らが言うことではないから、だから、このずっとを確実なものにするために。さっきから眠気が襲ってくるが、なんとか堪えている。白石も同じだろう。机の上の少し水の余ったコップを見ると、本当にこれで良かったのかなと、思ってしまう。
でも、永遠という怖いものを選ぶしか、この永遠よりずっと恐ろしい現実から逃れるには、これしかなかった。

「あー、えろいこと、しとけば良かった、なぁ。」
「あ、ほ…」
「へへ、可愛い。」
「ん…」

軽いキスをして、二人で寝転がる。するともう、今にも眠りそうだ。白石がまた涙を零して、ああもう、眠らせてくれと思いながらその涙を舐めとった。

「なぁ…」

眠気の中、なんとか言葉を紡ぐ。

「白石、は、」

これで良かったん、と、声に出したか出さないか、でも、白石には伝わってたようで、涙は見せず、それはもう優しく、俺の大好きな笑顔を浮かべた。
白石の、開いた口は声を出せていなくて、そして唇の動きが止まると同時に、俺は目をつむった。次目覚めたら、白石はいるんだ。二人で永遠に一緒だ。目を閉じた暗闇に、独り、二人、微笑んだ。





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