メールよりもっと
あかしろ
「白石さーん。」
後ろから重みがきて、抱きしめられているのかのっかられているのか分からない状態で切原クンが俺の名前を呼んだ。
「なんや、切原クン。」
「なんやじゃないッスよ。さっきからずっと携帯見てるし、なに見てるんすか。」
「ああ、すまんすまん。」
切原クンはムスッとした顔で携帯を覗き込もうとしてくるから、慌てて閉じた。周りが携帯を変えていく中、俺は今だにガラケー(財前にそう教えてもらった)と言われる携帯だ。
「…怪しい。」
「え?なにが?」
「見られたらまずいもんとかあるんすか?」
「いや、ないけど。」
不機嫌そうに眉間にしわを寄せる切原クンに、心の中でだけ溜息をつく。確かに、せっかく神奈川にきて久しぶりに会えたのに、ちょっとアレだったなと反省する。
「何見てたんだよ、白石さん。」
「いや、なんもないよ。」
「嘘だ。」
携帯を握っている手を握られ、少しどきっとするけど俺は閉じたままの携帯を握る手に力をこめる。
「俺には見せられねぇの?」
「そ、んなこと、ないけど、」
笑ってごまかそうとするが切原クンは俺から携帯を奪おうとする。これ多分見せるまで終わらないんじゃないのか。(いや、でも、見せたない、絶対!)
もちろん浮気なんてしてないけれど、俺の羞恥心の問題で、
「…」
「切原クン、ほんま、なんもないねん。」
やばい、怒ってる、かも?いや俺が悪い、俺が悪いんだけど、
「…俺は白石さんに会うの楽しみにしてたのに。」
「お、俺かて楽しみやった!」
「…」
怒ってる!怒らせてもうた。そりゃそうだななんて思っている場合じゃない、俺。慌てて切原クンと向き合う形に座ると、切原クンは少し驚いた表情になる。
「はい。」
「え、」
俺は切原クンに携帯を差し出す。別にええねん、後ろめたいことなんてなんもないんやから。切原クンは携帯を受け取って、恐る恐るといった風に携帯を開いた。
ディスプレイを見ると切原クンはさっきより驚いたように目を見開き、また「えっ」とだけ声を漏らした。(ほら、だから、)
「…ちょっとトイレ行ってくる。」
「え、ちょ、待って!」
立ち上がろうとすると腕を引っ張られ、もとの位置に戻される。顔が熱くなるのが分かって、切原クンから逸らした。
「これ、」
「…見ての通り、やけど。」
チラッと切原クンを見ると、切原クンの顔が赤くなっていた。だって俺が見ていたのは、メールの受信箱で、その中でも振り分けて登録されてる切原クンのメールを見ていたんだから。引かれてなさそうだからホッとしたが恥ずかしかった。
「…こっち向いて、白石さん。」
「…嫌。」
「ねぇ、」
切原クンの指が頬に触れて、息が止まる。「熱い」と感想を言われて、そっちだって顔赤いで、と返す余裕もなく、切原クンの方に向けば切原クンの唇が俺の唇に触れる。唇がすぐ離されると、今度は抱きしめられてしまった。
「あーもう、最初から見せてくれればいいのに…!」
「恥ずかしかったんやって…」
「好き、白石さん。」
そのまま、ベッドでもないのに倒される。だけど拒否する理由なんて、ない。
降ってきたキスをまた受け入れて、切原クンの背中に手を回した。
「…でも、やっぱ嫌ッス。」
「え…?」
「だって、目の前に俺がいるのにメールの俺見てるとか、変じゃん。」
「…ごめん。」
ムスッとしてる切原クンをかわいいと思ってしまう。だけど、そんなこと言ったら今度こそ機嫌が本当に悪くなってしまうから口には出さなかった。
「俺、ほんまに今日楽しみやったんやで?」
「…」
「昨日まで切原クンと楽しみ楽しみってメールしとって、幸せで、やから来るときもずっと見ててん。」
「…反則ッスよ、白石さん。」
「んっ…」
首に顔を埋められ、息が漏れる。
「切原、く、」
「もう、俺いるときに携帯見るの禁止。」
「っ…」
謙也や財前からメールきたらどないすんねん、と思ったけど、それこそ切原クンが怒りそうだから、多分俺はこの約束を守ってしまうんだろう。
「切原クン、大好きやで。」
切原クンがピタリと動きを止めて、名前を呼ぼうとしたら苦しいくらいの力で抱きしめられた。
「あー!!もう白石さん可愛すぎ!」
「うわっ!」
耳元で大きい声を出されて体が跳ねる。はーっと長い溜息を吐いた切原クンの顔は、さっき携帯を見せたときより赤かった。と、思う。
「やばい、我慢できねえ。」
「…ベッドは、」
「無理。」
無理って、子供かい。そう思うのと反対に、切原クンの男らしい表情に、少しどきっとしてしまう。
それはバレないように隠して、今度は俺からキスをした。
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