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オレンジ

秋、夕日に染まる、色素の薄い、綺麗な髪をずっと見ていた。
綺麗やなぁなんて思ってたら、かりかりと響いていたシャーペンの音が止んで白石もこちらを見た。すると、なんだか俺の心臓はどきってして、思わず白石に近付く。
ギギっと椅子の音が夕日の明るさのみに頼った教室に響いた。

見つめ合った数秒間が、永遠と言われても信じられるほどに長く感じて、いや、この瞬間だけと言うのを、信じたくなくて。

夕日に彩られた白石はほんまに綺麗で、こんまま額縁に入れて飾ってしまいたくなるような気さえした。

うるうるとした白石の目は、ただ俺を見つめる。

シャーペンを握る白石の手を自分の手で包んだ。俺のが少しでかい。
色白な白石の手を必死に、覆い隠すように握って、微かに開いた唇に、噛み付いた。
キスの隙間から「けんや」と弱々しく発した唇が、もう何も紡がないように、何度も何度も噛み付いて噛み付いて、でも白石が痛いのは嫌で何度も舐めて。

気がつけば、俺は泣いていた。
白石も泣いていた。
二人で、泣いていた。
互いの温度を確かめ合うように、互いの背中にしがみついた。

このときが、あのときが、永遠やったらええのに。

キスの間に聞こえてくる嗚咽混じりの好きという言葉に、胸が締め付けられる。

俺も好き。

誰よりも白石が好き。そんなの、戯言だと人は言うだろう。普通じゃないと、人は言うだろう。
でも、だから俺は今この瞬間が永遠であれば良いと、永遠ならどれだけ幸せなんだろうと。
ガタンと音をたてる机なんて、気にならなかった。
ただただ、耳に入るのは、白石の声だけ。

目に入るのは、

夕日に染まった白石と

あの夏の日。



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