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変わるものと

「ざーいぜん。」

聞き慣れた声が聞こえてそちらを振り向くと、にこにことした俺の恋人が立っていた。

「どうしたんすか、来るなら言ってくれればええのに。」

駆け足で白石さんのほうに寄るとふふんと変な笑い方をして嬉しそうに俺を見る。

「びっくりさせたかってん、それに財前が俺が居らんでもちゃんとやっとるかなーって見に来たかったんや。」

謙也さんは委員会だとかで、白石さん一人で来たらしい。

「それに変な気遣わせたくなかったんやもん。」
「…そないなこと気にせんでええのに。恋人なんやから。」

最後は小声で言うと白石さんは手を首に当ててうつむいた。すこし照れているのだろうけど、やっぱり嬉しそうやった。

「でもまだ練習ありますよ?」
「見たくて来たんや。」
「ほんま?」
「なにが?」
「そんだけかなって。」
「…あほ、練習中やで財前クン。」

少しムッとした表情の白石さんにわざとらしくハーイと返事をする。
すぐに学年が上がっても一向に成長の兆しを見せないゴンタクレの白石さんを呼ぶ声がコートに響いた。久しぶりやな金ちゃん、という白石さんの声が聞こえてるかいないのか、試合しようやーと騒いでいた。
そんな後輩をなだめて練習に戻す。成長の兆しがないとは言ったが、白石さんらが卒業してからは少しおとなしくなったように思える。ほんの少し、だけど。白石さんの方を見ると、少し寂しそうな顔をしているように見えた。なぜかが分からないほど子供ではないけど、うまい言葉がかけられる程大人でもなかった。



「金ちゃん、おっきなったなあ。」
「そうですか?」
「分からん?身長伸びてるで、金ちゃん。」
「…そんなにっすか。」

俺も伸びたんですけど、とは言わなかった。

「毎日見とるから、分からんのかもな。」

ジャージの俺と私服の白石さん二人きりの部室で、懐かしむように白石さんは部室内を見渡していた。

「財前とはちょくちょく会っとったけど、学校には来てへんかったもんなぁ。」

俺は恋人なんやから会うのが当たり前やろ、とも言わなかった。
白石さんの、今は俺のとなったロッカーを撫でて白石さんは寂しそうに笑った。

「このロッカー、財前で良かったって思うで。」
「…何気に他の部員にひどいっすね、それ。」
「俺、贔屓すごいんやで?知らんかった?」

ふざけた様に笑ってても、本当に思ってることは違うのを知っている。

「すまん、邪魔やったな。」

ロッカーの前からどこうとした白石さんの腕を掴む。少し驚いた顔に変わった。

「あかんよ、ここじゃ、」
「俺かて、成長してますよ。」
「…」

せやな、と目を閉じて笑う白石さんは、やっぱり眉を下げて少し寂しそうだった。
俺はいつだって、この人の背中を追ってきた。今では、その背中を追うことはできないけれど。

「そんな顔せんといて、蔵ノ介さん。」
「ざいぜ…」

ロッカーに白石さんの身体を押し付け、強引に唇を重ねる。こんな形でしか白石さんの寂しさを埋めることができない俺は、やっぱりまだ成長していないのかもしれない。

「ん、ぅ…」
「白石さん、」
「あ、かんって…」
「黙って。」
「ちょお、待っ、ん…!」

嫌なら振りほどけばいい、なんて。そんなことできないのも分かっている。あかんあかん言っといて煽るような反応を見せるのは白石さんのくせに。

「はっ…」
「俺が居るでしょ、寂しいことなんてあらへん。」

少し赤くなった頬を撫でる。白石さんは目に少し涙を浮かべていた。はっきり寂しいなんて言わない人だけど、付き合う前と比べたら今は俺に分かりやすく感情を出してくれていると思う。

「せやな、財前が居る。」

手を離せば、白石さんの腕が俺の背中に回ってきて抱き寄せられる。すっぽり入ってしまう身長差が憎い。

「怖い顔しとる。」
「…しとりません。」
「ふーん?」
「…何、変な顔しとるんですか。」
「しとりませーん。」

この人は、と怒ってやりたくなったが、楽しそうに笑っているからまぁいいかと溜息をついた。



「泊まってきます?」
「えっ」

白石さんと一緒に帰路を辿り、別れ道に近くなってきたところでそう尋ねる。

「ええの?」
「久しぶりに会ったんやし、ゆっくり話したいやないですか。」
「…とか言って、さっきの続きしたいだけとちゃうの?」

にやにやと笑みを浮かべる白石さんに、俺も少し笑う。

「白石さんはしたくないんですか?」

俺の反応が予想外だったのか笑みは一瞬で消えて、目を大きくさせ何回かまばたきした。「…ずるい。」

そっぽを向いてしまった白石さんの機嫌をとりながら、いつもなら白石さんとの別れ道である場所に着く。

「どうします?」
「…」
「素直になればええやないですか。」
「意地悪言うと行かへんで。」
「すんません。」

白石さんはふふっと笑って、俺の手を握ってきた。

「続き、シャワー浴びたらな。」
「…はーい。」

一生この人に勝てる日はこないのかもしれない、と溜息を吐きたくなった。でもまぁ、そんな白石に惚れてるのは俺なんだから、惚れたモン負けっちゅーことやと思う。





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財前誕です!誕生日関係ないけど!



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