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今年も変わらず

4月14日、俺の誕生日だ。始まったばかりの高校生活に少し疲れは感じているけれど、楽しいこともたくさんあった。高校生でみんな離れるから今年の誕生日はなしかなぁと寂しいと思ったりしたけど、都合良く土曜日で。昼間はみんなで祝ってくれた。高校生になっても今までの関係は変わらないようで、嬉しかった。

「部長?」
「んー?部長は財前やで?」
「疲れました?」
「無視かい、はしゃぎつかれたわー」

笑いながらそう言うと後ろから財前が抱き着いてきて、珍しいななんて言ったけど離れることもしなかった。

「なんかあったん?」
「べつに、なにも。」

本当になにも言ってくれないからわざと体重をかけてみたりするけど、反応はない。

「財前がなんかあったんなら、言ってほしいねんけど」
「べつになにもないです。」
「俺には話せない?」

今度は首だけ横に動かす。まだ8時前だし財前が眠いなんてこともないと思うのだが、もしかしたら疲れたのかもしれない。

「疲れたん?寝たい?」
「…そういうんやないです。」
「甘えたいんか?」

ちょっと冗談のつもりでそう言うと、今度は財前がなんの返事もせずむすっとした顔で俺を見てきたから、もしかして当ててしまったのかと思い少し笑ってしまう。

「…なに笑とんねん。」
「ごめん、財前が可愛いから、」
「格好悪いだけでしょ、こんなん。」
「そうか?俺は嬉しいで、財前が甘えてくれんのは。」
「…ええでしょ、二人だけのときくらい、くっついてたって。」

財前は小さい声でそう言って不機嫌そうな顔で俺を睨む。さっきまで皆でいたから、こうなっているのだろうか。

「ほんま可愛いなぁ、お前は。」
「嬉しくないっすわ。」
「どうせなら後ろからやないほうが嬉しいなぁ。」

俺がそう言うと、睨んでいた目がきょとんとする。「あかん?」と聞いてみれば財前は少し笑って、溜息を吐いた。

「ずるいっすわ、ほんま。」

財前が俺のすぐ前まで移動してきて、その場に座る。だけど「はい」と言っただけで少しも動かなかったので、「財前?」と声をかけるが少し手を広げただけだ。

「俺と正面から抱き合いたいんでしょ?」

と、さっきの可愛い笑顔とは全く違った笑顔で言った。

「…あほ。」
「部長のが可愛いやないですか。」

結局俺が抱き着く形になって、財前に背中をぽんぽん叩かれる。俺のが年上なんだけどなぁと思いつつ、何か文句を言ったら余計に子供っぽいからやめた。

「好きですよ、部長。」
「なっ……んやねん、いきなり。」
「誕生日やし、なんとなく。」
「意味わからん…」

ずっと背中をぽんぽんと叩かれ、そこまで子供ではないはずだけどはしゃぎすぎたせいかうとうととしてくる。

「眠くなってまうから、やめてや。」
「疲れたんでしょ?寝てええですよ。」
「シャワーとかまだやし、っていうか俺とイチャイチャしたかったんとちゃうんか、あほ…。」
「部長の寝顔写メるんで。」
「嫌や。」

っていうか、財前泊まるんとちゃうの?財前だってシャワー浴びてないし、8時までいるものだから今日は俺の家に泊まるつもりかと思っていたし、家に家族はいるからまずいとは思っていたけど少しだけ期待してたのは事実で、もしかしてこのまま帰るんか?

「財前、帰るん?」
「え?」
「いや、泊まるかと思っとったから、寝たらまずいって思ったけど、帰るんかなって。」
「…泊まるつもりでしたけど。服は持ってきましたし。」

そう聞いてほっとする。なににほっとしたのかは分からないけど、思い込みじゃなくて良かった。

「部長。」「ん?」
「俺が泊まるんやったら寝たらまずいって、なんで?」
「…え?」

からかうような笑みを浮かべて聞いてくる財前に顔が熱くなって、自分の言ったことに後悔が押し寄せるけどいまさら無かったことになんてできないのは知っている。

「あれは、あれやろ!」
「あれ?」
「あの、分かるやろ、あれや!」
「わからんのですけど?」
「っ…あほ!!」

恥ずかしさと財前にからかわれているのがたえられなくて財前から離れる。なんやねん俺だけ期待してもうて馬鹿みたいやんか、財前だってさっき散々甘えたいとか言ってたくせに、

「すんません、部長、拗ねんといて。」
「拗ねとらんし、別に財前がしたないんならせんでええ。」
「めっちゃしたいです、やから機嫌なおしてください、ね?」

財前から近づいてきて、気づけば俺の背中はベッドまで追い込まれていた。

「部長こそ、疲れてはるのにしてええんすか?」
「…今更聞くなや。」

財前の顔が近づいてきて、触れるだけのキスをする。なんだか久しぶりで、なんだか寂しいけど、財前と目が合って少し笑った。まだシャワーも浴びてないし、家族も起きてるけど、そんなことより今は財前が大切な俺には小さな問題だった。



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