つまりは好きだから
財前と喧嘩をした。
あんな喧嘩は初めての様に思う。
さすがに物を投げたり、暴力などはなかったが、大きい声を出して言い合った。
財前も俺も声張り上げて喧嘩なんてそうそう無いため、どう謝ったらいいか分からない。
まぁ理由といえば、俺が謙也と話していたのを見て気に入らなかった財前が何か言ってきてそれにムカついた俺がまた言い返して、の繰り返しだった。
携帯のディスプレイに写った財前の電話番号。発信ボタンを押すことだけが出来ない。よし、と心の中で決意をして、ボタンを押してみた。
しばらくするとお馴染みのコール音。
かと思ったら、財前は出ず、留守番電話に繋がってしまった。
でも返って良かったかもなぁなんて思う。電話でまた口論になんかなったら、嫌だし。ピーという電子音が聞こえて、何を言っていいかも分からなかったが口を開いた。
「財前、さっきはごめん」
言いたいことはこれだけじゃないはずなのに分からなくなってしまって、3秒くらい黙った。
「イライラさせてもうたんならすまんかった。でもな、謙也とは何もないし、財前だけやから、あの」
あの、なんだっけか。
だんだんと色々分からなくなってきて、泣きそうになる。ああもう。最悪…
「っやから、嫌いに、ならんでっ…」
ぽたぽたと涙が零れてきて、本格的な泣き声が入ってしまう前に電話を切った。すると、家のチャイムがピンポーンと鳴る。
今の俺はその音にすらムカついていた。
嫌いになるとかならない、とか。
そんなことないって信じてるのに、俺も色々言い過ぎたかなと思うとどうしても不安になるのだ。
服で目を拭って急いで「今出ます」と玄関に行く。
だが、ドアを開いた瞬間、今1番会いたくて1番会いたくない奴がいた。
静かに、無かったことにしようとゆっくりドアを閉めるとそいつの足がドアとの間に挟まってそれを阻止する。
「ちょ、部長!」
その隙間から手が入り込み、ドアをこじ開ける。こじ開けるというのは俺がまぁ閉めようと抵抗しているから、だけど
「………なんで?」
財前は急いでいる様子もなく、留守電を聞いた様子もない。え、俺の留守電なんやったん?なんて思いながらとりあえず中に入れた。今の季節、外は肌寒いが夜になれば本格的に寒い。
財前には俺の部屋に入っててもらい俺は温かい飲み物を入れる。ここまで財前とは最低限の言葉しか交わしていない。
大きさもデザインも違うマグカップを両手に持ち腕を使いドアを開けると、財前が携帯を耳に当てているので何をしているのかと思えば
『嫌いに、ならんでっ…!』
「だああああああ!!」
なっ、なななにしとんねん!とは言葉にならなかった。
マグカップを落としそうになったがなんとか机に置いて、財前の携帯を取り上げようとする。
「ざ、財前!ほんまやめて!」
「部長」
携帯を掴んで、ばっと取り上げ「やった」と声を上げそうになったときには、財前に抱きしめられていた。
何かを言うにも言葉が出て来なくておとなしく抱きしめられるしかできなかった。
「部長、すんません、俺、」
「ざ、財前……?」
「嫉妬して、部長に色々言うてもうたからじっとしてられんくて」
ぎゅうっときつく抱きしめられて苦しかったが、少し滲んだ様な財前の声に離してと言う気にもなれない。
「泣かせてもうて、すんません…!」
なんかもう力が抜けて、財前の携帯がするりと手の中を抜け床にゴトンと落ちる。
「あっ」と声を上げてしまったが財前に「ええから」と焦ったように抱きしめられる。
財前の背中に手を回し服を握ると、少し財前が離れて何かいけなかったろうかと心配になる。
途端財前の顔が視界いっぱいにうつりこんで、また焦った様にキスをされた。いつもより余裕がなくて、噛む様なそれはなぜかいつもより愛が感じられる。
頬に添えられた財前の手はやっぱり冷たくて、背中に回してた手を財前の手に絡めぎゅっと握る。
「部長、好き…」
「財前、んっ、ぅ」
俺も好き、と言いたいのに財前が分かってるというように何度もキスしてきて俺は財前を安心させたくてそれに応えようと唇を開いて舌を侵入させる。
それにびっくりしたのか財前は離れようとしたが俺は逃がさない。
でもいつの間にか主導権は財前に握られていて、深い深いキスをして唇を離した。はぁっと零れた息が熱い。
「部長、好きやから、好き、嫌いになんかならんから…」
「俺も、好きや。財前が好き」
だけどそれは当たり前のことだと思う。
でも当たり前のことでもちゃんと言わなきゃならないと思うから。
「なぁ、部長」
「ん?」
「好き」
「……どないしてん」
妙に気恥ずかしくて、少し笑ってしまったが、財前も柔らかく笑ってそれにびっくりする。
こんな財前が見れるなら喧嘩も良いかもしれないなんて思ったのは、財前には秘密。
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光蔵の喧嘩も書きたかったんです!あそこの喧嘩は基本無言でどっちかが謝るまでガン無視。とかだったら可愛い(?)
「ざ、財前」て言わせると「THE・財前」みたいですね
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