小説 | ナノ




寂しさからの


財前中3で白石が高1




最近会う度にエッチしてる気がする。いや、気がするのではなく、実際にそうなのだけれども。
財前は最近、盛り過ぎていると、そう思う。そりゃ中学3年生なんて思春期真っ盛りってのは分かるけども、俺だって高校生と言っても財前と1つ違い。そういう気分になることももちろん、ある。
でも財前ほどではない。
こないだなんて玄関で盛ってんねんぞ。玄関やぞ玄関。ちょっと歩けばベッドのある部屋だっていうのに。

それでも、毎日会えてたときの数ほど多くないっていうのが、高校と中学の壁、というやつだろうか。
会えること自体がぐんと減った上に、もうすぐ夏。大会が近づいてもっと会う機会は減るんやろうなあ。
そう思うと、寂しさに少し切なくなる。

「財前、明日空いとる?」
『すんません、部活っすわ』

財前とは毎日、とはいかないけれど、できる限り電話する。メールは毎日しているけれど。
俺は高校生活に慣れて、ある程度時間が作れるのだが、財前にとっては大切な夏前の誘いは、残念ながら断られてしまった。いやいや、部活なんだから仕方がないよな、断られたなんて表現すら失礼だ。

「そっか」
『すんません』
「嫌やなー、謝らんといてや」

財前がテニス頑張ってくれるのは嬉しいし、部長というものがどんだけしんどいのか、一番分かるのが俺で、これだけは誰よりも財前を分かってあげられる。それが嬉しい。
けど、寂しい。本当に本当に、頑張ってほしいという気持ちと寂しいという気持ちが同じ位ある。

「財前、」
『なんです?』
「好き」

その感情を隠すために、財前に伝える。俺が寂しいと言ったところで、財前がもし俺を優先したとして、俺は全然嬉しくなんかないのだ。

『…え、と、あの、』

おお、照れてる照れてる、財前の表情が簡単に想像できる。可愛いなぁ。

『…知っとります』

きゅうん!めっちゃキュンてしたで!!キャー知ってはるんですって財前クン!!物知り!!

『白石さん』
「んー?」

なんや財前も好きって言うてくれるん?俺をこれ以上キュンキュンさせんといてーなー!なんて、心の中でふざけてみるけれど、ドキドキしているのを隠すためで。

『愛しとります』

急に手にあった重みがなくなった。(あれおかしいな。)あ、携帯、落としてもうた。
慌てて拾ったはいいものの、携帯を耳に当て俺は口をパクパクさせていた。
その様は第三者が見ていたらかなり間抜けなものだっただろうが、それよりも、電話口の向こうから彼が告げた一言に俺は混乱していた。

「あ、ざ、ざざざ、財前くん…?」
『ねえ、白石さん…』
「は、はい…」
『愛しとんで』
「だーっ!!」

思わず携帯ベッドに投げてしもたやないかい!!殺す気か!!携帯が耳から離れても、低い、吐息混じりの財前の声が、耳の奥を、くすぐっている。
再び携帯を拾い上げ、警戒しながら耳に当てた。

「ざ、財前!おもろがってるやろ!!」
『いや、真剣です。』
「嘘吐け!!にやにやしとるんやろ!分かっとるんやからな!」
『あー、白石さん抱きたい』
「なっ…こ、この発情期!」
『白石さんにしか発情しません』

さっきまで寂しい思っとった俺馬鹿みたいじゃないか、しかもこいつこんな恥ずかしい台詞をさらりと、

『寂しいのやったら電話でします?』
「うっさいわボケ!」

(ん?)

「…財前、今、寂しいんやったらって」
『ああ、俺と会えんで寂しいでしょ?』

こう、財前が自信満々なのとか、気にならないほどに。寂しいって気付かれていたのが恥ずかしい。と同時に嬉しくもある。

「…そんな、分かりやすかった…?」
『寂しいってのは否定せんのですね。いえ、別に』
「じゃあなんで…」
『俺は白石さんと会えんくて寂しかったからです』

え、と声が出た。恥ずかしさはどんどん薄れて行き、その分嬉しさがどんどん、どんどん込み上げる。
だって、財前が寂しいなんて、知らなかった。思いもしなかったのだから。

「財前も、寂しかった…?」
『はい。その分会ってるときに埋め合わせしたいんですけど、なかなか足りひんのですわ』

埋め合わせ、て、もしや…エッチのこと?財前はしたいだけではなくて、寂しくならんようにエッチしてた?ってこと?

(なんやねん、それ)それは、とても、俺にとって嬉しいと思ってしまうような事実で。

『だから白石さん』
「う、うん」
『電話でしましょ』
「ああ財前すまん、電波悪なった。切るで?」
『ちょお待って!冗談ですわ』

いやほんまやったろ…

こんままやと俺は財前に流されるのは確実、通話しながらえっちいことなんてしなくてはならないけど。
それでも電話を切れない俺も、発情期かもしれない。






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