「今日うち、来いよ」
これが女に放たれた言葉なら、例えば紅先生のようなアイツと同じ大人の女に放たれた言葉なら(もしいのとかに言ったならそれはそれで問題だが)、少しは何かを含んでいるのだろうか。
だが残念なことに、俺は男でガキで、ちょっとばかし頭は同年代よりできあがってるらしいが、アイツの目に映っているのは小生意気な将棋相手の教え子、くらいのものだろう。よくてデキた同僚。いや、それはオコガマシイか。
そう、そこまで分かってるのにこうして誘われる度に性懲りもなく“何か”を探してしまうんだ。
全く、やっかいなモンを抱えちまった。
「………めんどくせぇ」
「あ?」
思わず出た口癖は自分に向けたもの、だがそれをアイツは見事に勘違いして眉を上げやがった。俺のキライな煙草を口元から話したままの間抜け面で。そりゃいつも誘いにゃ乗ってるけどよ、仮にも上忍師のアンタがこの程度でそんな顔すんなよ。ホントバカなんじゃねぇの、俺。だって“この程度”でそんな顔するアスマに、たまらなくなる。
―――あぁ、俺は、アスマが。
その後の二文字を俺は知らない。
紡いではいけないと知っている、それが溢れたときには“ここ”にはいられないと知っている、ただそれだけ。
「っはは、何て顔してんすか」
「な、てめっ」
笑って誤魔化す。それが今の最良だった。
何がIQ200超えだ、何の役にも立ちやしない。
「どうせ俺が勝つのに、懲りないっすね」
「うるせぇ、今日こそ勝つんだよ!」
そんな言葉で追及を逃れて。
だからどうか
二人とも不器用であってほしい