やわらかい感触がくちにふれる。頭の後ろのとこを掴まれて、目の前には恭哉のきれいな顔があって、ここでやっと、あ、これ、キスか、って、気づいた。え、恭哉のスイッチ全然わからん。なんでいま入った? ひとまず右手に持ってたグラスを手探りでテーブルの上に避難させる。危ないからね。
 ぬる、って、粘膜の温度。恭哉はすきで、おれはあんまり馴染みがない、日本酒の味。なしたん恭哉。がっついてるじゃん。甘えるみたいに舌を吸われて、かわいいなあっておもう。
 好きにさせてたら、思う存分吸って、舐めて、絡めて、撫でて、どうやら満足したらしい。恭哉は体を離して、何事もなかったみたいにタンブラーに口をつける。横顔は普段通りの顔色で、酔いが回ってるようには見えなかった。
「恭哉のこゆとこ、わかんねー」
「どういうところ?」
「えなんか……なにがはずかしくてなにがはずかしくないんかな、とか、そういう」
「あー……」
 さっき置いたグラスを手に取る。やあおまたせ、さっきぶりやね。氷が溶けてちょっと薄まったウィスキーを口に含む。おれはどっちかというと洋酒がすきだし、恭哉はどっちかというと日本酒とか焼酎がすき。ふたりしてザルだから、コスパを考えたら宅飲みに限る。おれは料理すきだし、思いっきりいちゃいちゃできるし、ほんの数歩でベッドだしね、いいことしかない。
「おまえは俺のことをどう思ってるのかわからないけど」
「ん? うん。すきだよ」
「……そうじゃなくて」
 んんって恭哉が咳払いする。照れてる? かーわい。うん、続けて?
「俺だって、おまえ相手にマウントとれたら気分良いし、余裕だってできる、よ?」
 首を傾げてそういって、たのしそうに目を細めてわらう。
「んは、ご機嫌やねえ」
 恭哉は今日もかわいくてえらい。よしよーしって髪に指を通して、頭を撫でる。
 けどまあ、とはいえね? とはいえよ。おれもほら、やられっぱなしじゃいらんないじゃん。おまえ普段からやってるだろ、とかは、まあ。まあまあまあ、ねえ?
 グラスの中身を飲み干して、置く。ついでに恭哉のタンブラーも取り上げて、空いた手と手を繋ぐ。指を絡めて、ソファに柔らかく押し倒して。
「……おまえのスイッチ、どこ?」
「んは、どこやとおもう?」
「質問に質問でかえすなよ……」
 いいながら恭哉は手を伸ばして、おれの前髪を耳にかける。瞳はもう熱っぽくとろけだしてて、さっきの、マウントとれたら気分いいって、あれ、ほんとかなあっておもう。ほんとなんだろうけどね。マウントとってご機嫌なのも、マウントとられてとろとろになっちゃうのも、どっちもほんとの恭哉だもんね。親指の腹でうすいくちびるをなぞる。ちろって覗いた舌に誘うみたいに舐められて、おれの番ね、って、攻守交代を宣言する。

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