棗は夜、いなくなる。
 いや、別に行方をくらませる、とか、そういうことではなくて。正確にいうならば、ベッドからいなくなる、だ。
 それは大抵、身体を重ねた後で、毎回ではないけど、でもまあ、おおよそ、大体、結構な確率で。散々して、後始末も風呂も全部済ませて、俺を寝かしつけた後、棗はベッドから抜け出す。俺は元々眠りが浅いから、それにわりと気がつく。いないな、と思って、そっと部屋の中を窺うと、棗はベッドに背を向けてスマホを見ていたり、ベランダに出てぼーっとしていたり、ソファで眠っていることもある。で、夜が明ける頃、俺が目を覚ます前には戻ってくる。そうして、あたかもずっとここにいました、みたいな顔で俺に朝の挨拶をするのだ。
 声をかけてみようか、と思ったこともなくはない、けど、なんとなくできないでいる。……触れてはいけないような気がしている、のかもしれない。棗が俺の過去を詮索しないでいてくれるように。
 ちいさく息を吐いて、寝返りをうつ。空っぽになったシーツにはまだ棗の体温が残っていて、だから、まあ、さっきまで触れてた人肌が恋しくなるのも、耐えられないことはない。まだ、しばらくは。

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