「せんぱい三限ないんですか? オレとカラオケいく?」
「えなんでカラオケ限定? ヒトカラ予定だったん?」
 学食はそこそこ空いてきていた。みっつとなりの席でなにかしらの麺類を啜っていた男子学生が食器を返して、ばたばたと出ていく。三限の開始はもう五分後に迫っていた。
「いやひとりではいかないですけど。せんぱいすきなんじゃないの、うたうの」
「……なんで?」
「機嫌いいときだいたいうたってるじゃないですか。アジカンとか、エルレガーデンとか、ふるめのバンドのうた」
「まてまてまてそのへんは古めじゃなくねえ!?」
 ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。たしかにおれら世代ドンピシャではないかもしれないけど。……けど!
「じゃあせんぱい的にはどのへんがふるめ?」
「えっ……ジュディアンドマリーとか?」
「ジュディアンドマリー……?」
「この話は終わりだ」
 なんでだよ。一年しか違わないだろおれら。席を立つ。
 返却口のベルトコンベアに空のどんぶりをのせたトレーを置いて、奥のおばちゃんにごちそうさまでしたーっていう。大型犬は「たらこのうどんめっちゃおいしかったです!」まで。これおばちゃん裏でにっこにこだろ。罪なやつ。別に罪なことなんもないけど。
「どこにします? 駅前のとこでいい?」
「ちなみにおれ三限あるんだけどな」
 えって顔をした犬が「えっ」ていう。もうおまえしゃべんなくてもいいよ。顔だけでわかるから。……いや、しゃべってはほしいかもしれん。うるさいはうるさいけど。
「もう始まってるじゃないですか。サボりましょう」
「急がなくていいんですか、くらいのことはいっとけよせめて。おもってなくても」
「なるほど」
「おもってないなるほどはいらないんだよなあ」
 足はもうサボりモードで、人気のまばらなキャンパス内を正門に向かってだらだら歩く。まあ元々サボる予定だったんだけど。
「駅前じゃない方の……バンバンの方が安いんじゃなかった? フリータイムドリンクバー付き」
「あーオレあそこ行ったことないや。せんぱい会員証もってる?」
「もってるもってる」
「じゃあそっちにしましょう」
 こいつとはそれなりに遊んでるつもりだったけど、大学生の娯楽ランキングベストスリーくらいには入りそうなカラオケにいくのは、そういえば初めてだった。
「おまえなにうたうの、カラオケ」
「え? んー、うーん……なんだろ、オレあんまうたわないからな……あ、スパイエアーとか? ワニマもすきかも」
「えっ」
「え、なに」
「…………い、いいじゃん……」
 なんか、ちょっと、こう……きた。いいじゃん。いいかんじ。いいとおもう、スパイエアーとワニマがすきなおまえ。うんうん。あ、あと、って続ける横顔がちょっとうれしそうだった。でかい犬だ……とおもった。
「オレあれもちょっとききますよ、ボカロ」
「へー、おれも結構すき。1925とか」
「いちきゅーにーごー……?」
「はー、解散解散」
「しませーん」
 パーカーのひもをきゅって掴まれる。おまえそこはおまえ……もうちょっと、なんか……手とか…………いやなんでもない。きっしょ。おまえなんか一生ひも握っとけ。


戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -