なんか最近ぼんやりしてんな、とは思ってた。大きめの課題が続いてるって聞いてたから、ちょっと疲れてんのかな、とか、その程度に思ってたここ数日の自分を、今ならぶん殴ってやりたい。

 夕飯食べて、適当にテレビとかみて、各々シャワー浴びて、で、今。セミダブルのおれのベッドは、恭哉んちのシングルよりもいくらか広くて余裕がある。替えたばっかのシーツの上で向き合って、片手で抱きしめて、もう片手は後頭部にまわして、それから唇を重ねる。ふにふに押しつけたり、舌でぺろ、って舐めたり。それだけで、ああきもちいんだろうなって、そういう顔をする恭哉がかわいくて、雰囲気も相まってちょっとずつ腰が重くなる。
「んね、くち、あけて」
 思ってたより低い声がでて、おれ余裕ねーな、って、ちょっとわらえる。
 差し出された薄い舌を絡めとって犬歯で甘噛みしたら、恭哉の喉から、ぁ、って声が漏れた。あは、かわい。もっとききたい、から、背中に回した手で、背骨から腰まで、つうってなぞる。
「……な、つめ、」
 腰をぞくぞく震わせる恭哉が、とろけた声でおれの名前を呼ぶ。なんかもうたまんなくなって、肩を押して、ベッドの上に押し倒す。パーカーの裾から手を入れて、腰を撫でて、それ、で、
「……え、?」
 思考が、止まる。指先に触れた感触、は、何?
 おもいきって裾を捲り上げて、ザアッて、血の気が、引く。
「なつめ……?」
 とろとろな恭哉の声と、急激に冷めていく頭の中がちぐはぐで、混乱する。なにこれ。
「……恭哉、」
「うん……?」
「やっぱ、やめとこ、今日」
「え……?」
 恭哉のからだから目が離せないまま提案した中断を、恭哉はうまく飲み込めないみたいだった。そりゃそう。おれだって、そう。
「……ね、恭哉。なんでこんな、痩せてんの?」
 肋骨の浮いた腹に、手のひらで触れる。たしかに元々薄いし細かった、けど、こんな、ここまで不健康な痩せ方じゃなかった、はずだった。
「ね、きょーや……恭哉?」
 返事がないのを不審に思って、腹から顔へ、視線を上げる。え、ねえ、なんでそんな、
「ぁ……ごめ、ごめん、棗、萎えたなら、謝る……ごめん、次までに体重もどしておく、から」
 ふるえる声で、真っ白な顔で、恭哉はたぶん、おびえてた。何に、なんて、そんなのきまってる。おれに嫌われることに、だ。
「ちがう、恭哉、ごめん、そうじゃない、大丈夫だから」
「……大丈夫、って、なに、が」
 乱した服を整えて、抱きしめる。シーツの上でかたく握りしめられてた手はかわいそうなくらいつめたかった。
「すきだよ、だいじょぶ、どんな恭哉でも、ちゃんとすき」
「……ほんとう、に?」
「ほんと。すきだよ、恭哉、おれね、世界でいちばん恭哉がだいじなんよ」
 とん、とん、って背中をたたきながらいえば、強張ってた身体から力が抜けて、吐息が首筋にあたる。
「んでもな恭哉、なんか……しんどいこととか、あるならいってほしい。急にこんな痩せられたら心配になる。いいたくないことはいわんくていいから、ただしんどいって、それだけはおしえてよ、な?」
「……でも、重いだろ、そんなの」
「重くない、し、めんどくさいとかもおもわん。絶対」
 きっぱり言い切ったら、恭哉はちょっと迷って、それからちいさく頷いたみたいだった。
「……わか、った」
「ん!」
 身体を離して目を合わせる。安心したみたいに、恭哉がやっとわらった。よかった。やっぱこっちの方がいい。
「で、その……痩せた理由、なんだけど」
「あー……んや、いいたくなかったらいわんくていーよ?」
「いや……まあ、あんま詳しくは、まだ、話せないと思う……けど。でも、知っといてほしい、棗に」
「なら、うん。ゆっくりでいいから」
 顔を突き合わせて、っていうのも話しにくいかなあとおもったので、ベッドの縁に腰掛けて、おいで、って恭哉の肩を抱き寄せる。思ったよりも素直に凭れかかってきたから、かわいい、とか、思っちゃったりする。そんな場面じゃないんよおれ。えと、って言葉を探す恭哉の声に耳を澄ませる。
「なんか、んん……昔、色々……あー……これは、ごめん、まだ伏せさせてほしい」
「うん、いい。話したいとこだけ話して」
「ん……色々、あって、その、あんま良くない思い出が、いまでも時々……フラッシュバック、みたいな、することがあって。そのせいでコンディション悪くなる時期が、たまに、ある」
「うん」
「今回もそれで、あんま食欲なくて、体重落ちた。けど別に、食ったら吐くってわけじゃないし、その気になれば食えるから、そんな、心配しなくていい、って、だけ」
「……そか。ん、わかった。話してくれてありがと」
 恭哉のさらさらの髪を撫でる。おれのと同じシャンプーの匂いがするなっておもってたら、で、あと、って、恭哉がちょっと気まずそうに言葉を続ける。
「おまえに、謝んなきゃいけないこと、ある」
「んえ、なに?」
 恭哉が身体を離して、まっすぐにおれの目を見る、から、おれもなんとなく姿勢を正してみる。
「おまえのこと、信用してないみたいなこと、いった、から……ごめん、なさい」
「んん……?」
「貧相な身体みて萎えられたかも、って」
「あっ……あ〜〜〜はいはいはい、なるほどな?」
 一瞬本気でなんのこといわれてんのかわからんかった。なんか、そう……そっか、恭哉らしいといえば、まあ、らしい。すごく。ちょっと俯いて、恭哉は言葉を探りながら、続きをいう。
「……おまえがそんなやつじゃないっていうのは、ちゃんと分かってる、つもり。なんだけど、ごめん、おまえみたいなやつに、これだけのものを与えてもらえるだけの価値があるって、俺はまだ、自分のこと評価できない……から、勝手に不安になる。ごめん、ほんとうに」
 ぎゅってまたかたく握りしめられた拳を上からおれの手で包んで、顔みせて、っていう。切れ長の目が濡れてて、ああ、しんどかったんだなあ、って、思う。なんで泣かすまで気づけんかったんだろ。こんなにすきで、こんなにいとしいのに。こんなんじゃ、泣かんといて、なんて、いえん。
「だいじょぶ、そんなん全然気にしてない。恭哉がおもってること、きけてよかった。んで、おれもごめん」
「え……?」
「まず、もっと言葉選ぶべきだった……し、恭哉があんま自分のことうまく信じられんて、おれはわかってた、のに不安にさせたのは、おれが悪い」
 だから、ごめん。そういえば、恭哉はゆるゆると首を横に振る。
「おまえは悪くないだろ、そんなの全部俺が、」
「んーん、恭哉、ふたりの問題なんだから、どっちかがぜんぶ悪いなんてことない。恭哉に良くないとこがあったんなら、おれにもあんの。わかるよな?」
「…………う、ん」
「だからおれはもっと恭哉の気持ち考えるようにする……し、恭哉はもっと思ったこと口に出してほしい。いい?」
「……わかった」
「ん、ならおっけ!」
 よしよし、って頭を撫でて、唇に触れるだけのキスをする。恭哉がぎゅーって抱きついてきて、うん、たぶん、もう大丈夫。
「んあ〜、頭使ったら腹減った。な、夜食にせん?」
「いまから?」
「そ! てか恭哉にはもちょっと肉つけてもらわんと。腹薄すぎていまおれのいれたら破けそう」
「それは……困るけど」
「な? おれラーメンがいいな。味噌にバターとコーンのっけちゃろ。恭哉は?」
「んん……塩。食べらんなかったら、残り食ってくれる?」
「んは、運動部男子にまっかせとけって。っし、んじゃ恭哉は鍋見張っとく係な!」

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