生協学生委員会の副委員長で、委員の誰よりも仕事ができる。真面目で、すこし無愛想なところはあるけど、優しいし、周りをよく見てる。学費免除の手続き書類を書いているのを見たことがあるから、成績もいいらしい。ついでに、美人。中性的なわけじゃないけど、イケメンっていうよりは、やっぱり、美人。つい見惚れちゃうような、不思議な色気がある。それが、恭哉先輩。
「宮森」
 そう、声もいい。中低音域、っていうのかな。艶があって、響きが深い。
「……宮森?」
「……え、あ、は、はい!」
 名前を呼ばれてるのに気がついて、慌てて返事をする。いけない、ぼーっとしていた。
「大丈夫か、疲れてる?」
「や、いえ、全然! 元気です、めっちゃ」
 気遣わしげな視線にぶんぶんと首を横に振れば、恭哉先輩は、ならいいけど、と紙の束を差し出した。
「これ、この間のアンケートの集計結果。まとめたから、掲示用に資料作ってくれるか?」
「え、集計終わったんですか!? 回収したの一昨日ですよね……? 昨日は活動なかったし、まさか先輩一人で……?」
「まあ……時間あったし、何かしてないと落ち着かなくて」
 こういう、ところ。私なんかより全然疲れてるんじゃないの、って思う。これに加えて塾講のバイトまでしてるっていうんだから、一日の活動時間何時間なんですか、って訊きたくなる。
「頼んでいい?」
「あ、はい、もちろん!」
「そうか、助かる。こういうデザイン的な仕事はやっぱり、宮森が一番頼りになるから」
「あ、ありがとうございます……!」
「それ俺が言わなきゃいけないやつだろ。いつもありがとう」
 あ、恭哉先輩の微笑み、レアなやつ。今日部室きてよかった。頑張ろう、資料作り。
 と、不意に大きな音を立てて扉が開いて、
「んは、きょーややっぱここいた」
 入ってくるなり恭哉先輩の姿を見つけてにこにこ笑う、こっちはイケメンオブイケメン、みたいな、イケメン。恭哉先輩の、たぶん友達、なのであろう、棗さん。聞くところによればバスケ部らしい。なんかキラキラしてる人。
「お、宮森ちゃんだ。お疲れ」
「お、お疲れ様です」
「何しにきたおまえ」
 呆れたみたいな声で、恭哉先輩がいう。棗さんと話してるときの、ちょっと乱暴、っていうか、雑、な対応は、それはそれでレアだったりする。といっても棗さんの出現率が高過ぎてそのレアリティもちょっと怪しくなってきてはいるけど。
「いやライン送ってんのに恭哉既読つかんからさ。きちゃった」
「え……あー、それはごめん。気づかなかった」
「んは、いーよいーよ。てか課題修羅場って言ってなかった? 終わったん?」
「ん、それは終わった」
「お、えらーい」
 鬱陶しそうな顔を一切気にしないで恭哉先輩の黒髪を撫で回せるメンタルは、正直すごいなって思う。男の子の距離感ってあんなものなのかな。
「んじゃさ、今日おれんち来るよな? 夕飯作るよ」
「あー……ん、行こうかな」
「おっけ。なんやかんやでひさしぶりじゃん? なに作ろっかなー……肉と魚どっちがい?」
「魚」
「あーあんまがっつりな気分じゃないかんじ? おっけおっけ、考えとこ」
「俺、まだ作業あるから先に帰ってていいよ」
「んー……んや、待っとくわ。やれることあんなら手伝うし」
「……そう」
 そ、って一音で返事をした棗さんは、窓際の席――恭哉先輩の横顔がよく見える席に移動して、なんていうんだろう……たいせつに集めた宝物をながめる、みたいな、そういう顔で恭哉先輩をみていて、なんか、やっぱ、男の子の距離感、よくわかんないな。

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