恭哉はたぶん、実家がすきじゃない。最寄りのショッピングモールまで車で一時間かかる田舎だから、とか、兄弟が多くてプライバシーがないから、とか、そういうのじゃなくて。
 お盆とか、年末年始とか、そういうタイミングで実家に帰省しないってきいて、最初は、ふーん、めんどくさいんかな、って、その程度に思ってた記憶がある。けど、それは例えば、おれがうっかり食器を割ったときに恭哉の口からこぼれた小さな悲鳴だったり、恭哉の腰にある、たぶん本人も知らないのであろういくつもの小さくてまるい、薄くなった火傷跡だったり。そういうことなんやろなって、そう思うにはわりと十分な数のピースが恭哉の身の回りにはいくつも、さりげなく散らばっている。直接きいたわけじゃないからわからんけど、でもたぶん、そう。こんなに当たらんでほしい勘もなかなかない。
「んね、なかんといてね、きょーや、わらってて」
 疲れて眠ってしまった恭哉は、すくなくともいまは穏やかな寝顔をしていて、これは、おれの隣で安心してくれてる、とか、自惚れていいやつなんかな。
 ね、恭哉、やな夢みてない? 明日がくるの、こわくない? 何におびえてるの? ききたいことも、かけたい言葉も、いくつもあって、でもそれをするのは、今じゃない。今はただ、おやすみ、また明日ね、って、それだけでいい。いいんだって、わかってるから、眠ってる恭哉を起こさないようにそっと手を握って、おれも目を閉じる、だけ。


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