6話

昼休み、いつものように岩泉の教室を訪ねれば女子が1人ドアを塞いでいた。
手には何かを抱えていて、真っ直ぐ向いた視線の先には及川。
何度かこういった光景は見たことがある。
決まってその手に持ったものを及川へ渡すのだ。
スゥ、と息を吸った音が聞こえると

「周様ぁああ!お願いです助けてくださいぃいいい!!」

そう叫び、物凄い勢いで教室に入っていった後ろ姿に圧倒されて思わずその場に固まる。
周りも同様に声の主に視線を向けていた。
及川じゃなくて楠木さんだったのか。
そんなことを思いながら及川たちがいる岩泉の席へと彼女たちの後ろを横切った。
その際聞こえた会話からは楠木さんにお願いしますと泣きついているということしかわからなかった。

「和ちゃん、相変わらずだね〜」
「すげーデジャヴ」
「北一の人?」
「そーだよ。名前と違って騒がしい子でしょ」





『ちょっと、なごちゃん落ち着いて!』

大声で私に助けを求めながら突進と言っても過言じゃない勢いで来た彼女に驚けば、周りの目がこちらに向いていることに気付き、慌てて彼女を宥める。
そんな彼女は中学から仲良くさせてもらっている友達だ。
落ち着いてきた彼女に何となく用件を予想しつつどうしたのか訊ねると、ブワッと効果音が付きそうなほどの勢いで涙を浮かべて

「私の夏休みが…消える」

そう言って椅子に座っていた私の足に縋り付くように崩れ落ちた。
あらら、やっちゃったか…ちょっと分かってたけど。

『補習取っちゃったんだ?』
「そうなんです。助けてください周様」

土下座する勢いで頭を下げられ、とりあえず何を助けてほしいのか訊ねると、どうやら先日の試験で赤点の科目があった人は、夏休み中に学校で赤点の科目の解き直しをして提出しなければならないらしい。
答案返却時に解答は配られたが解説はなく、教科書や授業ノートなどを見てつまり自力で解き直さなければならないという。
なごちゃんの赤点科目は3つと夏休みが無くなるほどかかる量では無かったが、中学から大の苦手と言っていた文系科目が2つあり、自分だけじゃ到底解けないということで手伝ってほしいとのこと。

「周も周で色々予定とかあるだろうし無理には頼まないけど…」

なんて言いつつも涙目で相当落ち込んでいる友人を見ると断るに断れない。
しょーがないなぁ。なんて笑ったらさっきまでの落ち込みはどこに行ったの?と思うほどの笑顔。

『そんなに毎日予定があるわけじゃないし、なごちゃんが補習漬けだと私の遊び相手減っちゃうし。早く終わらせて夏休み遊ぼう?』
「……うわぁあああ!周ありがとぉおお!!大好き女神さま!!!」

また視線を浴びるような大声でギュウっと苦しいくらいに抱き着かれ、恥ずかしいから離してと言っても聞こえてるのか聞こえてないんだか聞く気がないのかいつまでも離れない。
全部予定入れちゃおうかな、なんて冗談を呟けば真に受けたのかスッと離れた。
聞こえてるんじゃん。
そろそろ教室戻るねと言った彼女に手を振り、席に向き直れば、見送ったはずの彼女が教室のドアのところから周ー!ありがとね!と叫び再び教室から出て行った。
本日何度目か分からない視線が恥ずかしい。

「おつかれ周ちゃん」
『及川くん』
「前より和ちゃんの扱いうまくなったんじゃない?」
『扱いって…ペットじゃないんだから』

ね?と及川くんが同意を求めた先にはいつものバレー部の面々。
もしかしてみんな全部見てたんだろうか…そう考えるとなおさら、自分に注目されていたという事実が恥ずかしかった。


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