赤葦:ひたすらに真っ直ぐ

幼稚と言うほど子どもじゃなく、大人びてると言われればそうでもない。
子どもっぽい。無邪気。
色んな言葉を当てはめてみたけど多分これが一番しっくりしてると思う。
何かいいことがあれば飛び跳ねて、何事もやるときは真剣に。
気が落ち込めば静かになってたまに拗ねたり愚痴をこぼしたり。
失敗することがあれば悔しいと言ってボロボロ泣く。

初めて会ったときはよく笑う人だと思った。
かといってヘラヘラしてる訳じゃなく、マネージャーの仕事は人一倍に働いていた。
少し前の練習試合で一歩及ばなかったときは練習試合だというのに選手の誰よりも悔しがっていた。
その帰りのバスの中で揺られながらも試合中のことをノートに書いていた。
偶然見えたその目は濡れていて、かと思えば袖で少し乱暴に拭って、よしと呟いてまたペンを動かした。
ああ…いいな、この人。そう思った。

『赤葦くん。赤葦くんてば!』
「!」

ヒラリと目の前で振られた手に引き戻される。
どうやらさっき聞こえた呼びかけ以外にも何度か呼んでいたみたいだ。
ぼうっとしていたことを謝ってから、どうかしましたかと聞けば目尻を下げて言いにくそうに頬を掻いた。

『あの、えっと…違ったらごめんね?』
「?」
『あ、あんまりじっと見られるとその…恥ずかしいなぁ〜なんて思ったり…』
「……え」

思ってもなかった言葉に驚く。
そう言われれば、休憩と声が入ってからなんとなく視線を向けた先に苗字さんがいて、部員が休憩を取る中も忙しなく動いていたのが見えて…ああ。
知らないうちに自分でも驚くほど彼女を見ていたかもしれない。

『ごめん!やっぱ私の勘違いだったかも!ごめんね休憩中に。ゆっくり休んで』
「待ってください」

慌てて戻ろうとするのを引き留めれば首を傾げてどうしたの?と向き直った。

「見てました。苗字さんのこと」
『…え?あ、あ〜やっぱり!』
「すいません」
『いやいやいいんだ!いいんだけど…あんまり見られると恥ずかしいし気にしちゃうと言いますか…』

おずおずとほんのり顔を赤くしながら紡ぐ姿に、普段見たことのない表情の所為か不覚にも可愛いと思った。
もっとまだ見たことのない顔が見たいなんて思ってしまったから。
もしかしたら俺は苗字さんが好きなのかもしれない。

「じゃあ気にしてください」
『え?』
「俺のこと、気にしてください。俺が苗字さんのこと気にしてるみたいに」

少しでもあなたの意識に俺がいたらまた違った顔を見せてくれますかね?
できれば俺だけに見せる表情があったらいいのに。
…多分俺は自分が理解している以上にあなたのこと好きですよ。
だから俺のことを気にして気にして、気になってこの言葉の意図に気付いてください。

- 1 -
prev | next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -