捧げ物 | ナノ

 伊月:君の笑顔が見れるなら

「おい伊月どーするよ」
「人手足りないよな…はっ!ヒトデの人でなし!キタコレ!」
「黙れ伊月。これは死活問題だぞ」

日向やコガたちと頭を悩ませる。
何にそこまで悩んでいるか…その原因は来週に控えている夏の合宿だ。
今年の部員数は去年WCで優勝したお陰で倍以上に増えた。
ここまではありがたいし、根本的な原因じゃない。
普段の練習では新たに男だけどマネージャーも入って人ではそれなりに足りている。
本当のところ女マネがいいんだけど、正直選手目当てであまり仕事をしてくれないからカントクが女マネ禁止にしたんだ。
海常とかにマネがいないの納得した。

っと、話が逸れたな。
まあつまり何が言いたいかというと合宿中に料理を任せられる人がいない。
カントクが俺らのために作ってくれることには感謝してるけど、あの過酷なメニューの後には流石に辛いんだ。

「つってもなーアテなんてねーし」
「あ、伊月あの子は?ほら、お前と仲いい隣の席の…」
「世良ちゃん?」
「そう!世良ちゃん!」
「い、いや彼女だって受験生だし…流石に3年には」

それにまさか彼女の名前が上がるなんて思ってなかったけど、密かに思いを寄せてる子が一緒に合宿にくるとか…料理を作ってくれるとか
すごく嬉しいけど正直練習に集中できなくてカントクに追加メニュー出されそうだ。

『あの、』
「…え?世良ちゃんどうしたの」
『実はね…』

どうやらカントクが彼女に合宿の料理係を既に頼んでいたらしい。
カントクナイスじゃないっすか!…って、俺これもうすごく嬉しいけど追加メニューが待ってるんじゃないかと思うと存分に喜べないもどかしさ。

なんて思っているうちに合宿の日がきた。
練習中はどうなるかと思ってたけど、朝昼夜の3食をこの人数分作るには結構時間がかかるみたいで、彼女は少し顔を出しに来るくらい。
ほっとするんだか残念なんだか…

『あ、伊月くんお疲れ様』
「ありがとう世良ちゃん。わざわざ合宿に手伝いに来てもらって大変だろ?」
『そんなことないよ。私嬉しくて』

そう言って微笑んだ彼女はすごく可愛くて。

『ほら、もうみんなと一緒にいれるのも少ないし思い出作りというか…ごめんちょっと嘘ついた』
「?」
『本当は伊月くんと少しでも一緒にいたいなとか思ってたり、して…なんて』

段々声を小さくしながら顔を俯かせたかと思うと、ぱっと顔を上げて「それじゃあまた明日ね。おやすみなさい!」と。
つい身を翻して部屋の方へ行こうとする彼女の手を取ったけど…待って、いきなりでちょっと頭が追いつかないんだけど…俺の聞き間違えじゃなかったらさ

「ねえ、それって期待してもいいの?」
『え!?あ…』

そう言って俺に背を向けたままコクコクと頷く彼女の、髪の隙間から見えた耳は赤く色づいていて。
少ししてちょっとだけ振り向いた彼女は、片手で顔を隠しながら俺が掴みっぱなしにしていた方の手を振り出した。
でも俺は離してやらない。
だってきっとこのまま離したら世良ちゃん逃げるでしょ?

『い、伊月くん離して、恥ずかしい…』
「うん、ごめん。ちょっとできない。俺ももっと世良ちゃんと一緒にいたいし。それに俺、世良ちゃんのこと好きだから…ダメかな?」
『…ダメじゃ、ない。あのね!私も伊月くんのこと、す、好き』
「世良ちゃん、この合宿に手伝いに来てくれてありがとう。俺部活で忙しいし迷惑かけるかもしれないけど俺と付き合ってくれませんか?」

頬を赤くして、喜んでと微笑む彼女を見たら今なら合宿のメニューを何倍にされて疲れても、これからこの笑顔をずっと見れるなら平気かもなんて思えた。


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