捧げ物 | ナノ

 黒子:僕が砕くスパイラル

僕は彼女から目が離せない。
それは彼女・・・世良さんに見惚れているからという理由からではない。
なんて言うと少し語弊がありますね。
僕が世良さんに好意を寄せているのは確かですが、この場合は好きだからいつも視界の端に入れていたいという甘い意味ではなく、それとは別で彼女から目を離すことができない。

彼女は危なっかしい。
この言い方では可愛らしいかもしれませんが、もっと別の言葉を使うと彼女はとても運が悪い。
彼女とは同じ中学で関わりはそれほど無かったものの、こうして今もしゃんと立って、笑って、高校生活を送れていることが不思議なくらい。
そして、ある時彼女の不運ぶりを偶然見た緑間くんが、ほとんど面識のない彼女におは朝の占いを見ることを勧めるほど彼女は運が悪い。
それは小さなものから大きなものまで。

『うわっ!』
「ちょ、大丈夫?」
『うん、平気。ありがとう』

そんなことを思っているうちに今も階段を登る途中足を躓かせて、隣にいたよく彼女と一緒にいる人が咄嗟に彼女の手を引かなければ危なかった。

「さっきは危なかったですね」
『え?あー見られてたかー』
「ちょうど後ろにいたので。びっくりしました」

恥ずかしいなー。と笑う彼女は、周りより少し注意力が散慢だと思っている程度で、はっきり言って自分が運が悪いと自覚していない。
緑間くんから勧められたおは朝の占いも、見てラッキーアイテムがあれば持ってきて「あれ、今日はなんかスムーズに進む」程度にしか思っていなく、彼のように執着していない彼女はラッキーアイテムがなかったり、忘れたり、その占い自体を見ていなければ持ってこない。
そんな日は当然と言えるほど何かしら危ない目に遭っている。
きっと今日彼女はラッキーアイテムを持っていないのでしょう。

「世良さん、良ければ一緒に帰りませんか?」
『黒子くんがいいなら・・・でも部活は?』
「今はテスト前なので部活はありません」
『そっか、じゃあ帰ろー』
「はい」

そういって1歩教室を出た瞬間、彼女は廊下でふざけていた男子生徒から体当たりを受けた。
ああ、僕が先に出ていれば...なんていう後悔は遅く、よろけた彼女を受けとめ、大丈夫ですか?と声を掛けるしか出来ず。

「うお、悪い!大丈夫か?」
『平気平気、こっちも急に出てきたし』

もっと確認すれば良かったーという彼女に溜息が漏れそうになった。
その後も玄関を出れば、どこから飛んできたのか野球のボールが彼女スレスレに落ちてきたり、道を歩けばベランダに飾ってあった鉢植えが落ちてきたりと本当に危なっかしい。

『いやーさっきから心臓が飛び出そうだ。もっと気をつけないとなー』
「いえ、それは気をつければどうこうなるようなものではないと思います」
『あ、そうだ。黒子くんってバスケ部だよね?今度見に行ってもいい?』
「それは・・・っ世良さん!」

クルッとこちらを振り向いて聞いた彼女に、それは構いませんよ。と言う途中に耳に飛び込んできたスキール音。
それはいつもの聞きなれたバッシュの短い音ではなく、長くて大きい、タイヤと路面が擦れ合ってできた音で。
彼女のすぐ後ろに迫った車のライトに照らされ、逆光になった彼女の腕を咄嗟に力いっぱい引っ張った。

『あ、ありがとう・・・』
「困ります、世良さんのその不幸体質」

間一髪で僕の腕にすっぽりと収まった彼女を離してしまったらまた何かあるんじゃないかとギュッと抱きしめる。
もし、彼女が1人でいたらなんて思うとゾッとした。

「世良さん、僕から離れないでください。あなたが危険な目に遭うのは嫌です。でも僕以外に守られるのを見るのも嫌です」
『う、うん・・・?』
「好きな人は僕が守りたいです。世良さんを守らせてください」

さらに腕に力を込めると大きく縦に振られた首に、彼女の不幸体質を覆い隠せるくらい僕の持てる幸運を2人で共有しようと強く思った。
それが足りなければ、僕は全力であなたに降りかかる全ての危険から守ります。

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