※日/本沈/没パロ
※そこはかとなく重い?



「逃げないの」

もう何度目になるだろう地震が俺たちを揺らして、すぐ隣町とここ池袋は分断された。ぐらぐらと余韻の残る頭で俺はシズちゃんに問い掛ける。

「もうすぐここにいるみんな死んじゃうのに」

どおん。また揺れた。いや、違う、これは爆発音だ。どこかで火災が起きたんだろう。バックドラフト現象だっけ?あれ、生きてる内に体験するなんて思わなかったなあ。

「…手前は逃げないんだろ」
「まあね。逃げても意味ないし」
「だから俺も逃げねえ」
「……」

一体どういう論理でそうなったんだ。結局シズちゃんの思考は理解できないまま終わりそうだ。ああなんて最後まで面倒臭い男だったんだろう。

「どうせ皆沈むんだ、今更どうってことねえよ」

地響きが襲う中、どうしてそうも飄々といられるんだか、本当こいつには危機感が足りなさすぎると思う。鈍い、を通り越して何も感じていないのだろうか。身体の強化に伴って色々劣化だか退化だかしてるに違いない。

「でも君は」

部屋が暑い。非常に暑い。きっと近くの火災のせいだ。じりじりと肌が焼けるように痛い。けれど君はそんな痛みなんて分からないんだろうね。だからこそ、

「君は…生きなきゃ、駄目だよ」
「馬鹿言え」

間髪入れずそう返されて、俺は必死に捻り出した言葉を飲み込むしかなかった。

「手前のいない世界なんざ、生き続けるだけ無駄なんだよ」

日本が沈んじゃうっていうのに、シズちゃんは笑顔だった。けれど俺は、屈託のない、太陽みたいに輝くそれに救われたような気がした。涙で目が霞んで、でもこんなみっともない顔見られたくなくて。思わず抱き着けば、シズちゃんは力いっぱい俺を抱きしめ返してくれる。それだけで嬉しい、だなんて。

「シズちゃん」
「ん」
「シズちゃん、シズちゃんシズちゃん」

ひたすらに彼を呼ぶ。もう俺に残された世界には君しかいないから。シズちゃんの肩口に顎を乗せて、そのまま窓の外を見れば、そこは夕焼けと街の火とで真っ赤に染まっていた。呆然とそれを見詰める。動かなくなった俺を心配してか、彼は俺の視線を辿って、そのまま外の赤さに気が付いた。

「綺麗、だな」
「うん」
「手前の目みたいだ」
「…何それ」

くっさい台詞だったけど、そんなのでも擽ったい気持ちになっちゃう俺は、なんて馬鹿なんだろう。俺たちは抱き合ったままベッドにダイブした。焦げた匂いの充満する部屋の中、布団に潜り込んで、くすくす笑いながらシズちゃんの胸に顔を押し付ける。シズちゃんも笑って俺を抱きしめた。新羅もドタチンも波江さんも妹たちもあまつさえ九十九屋も、どうなったのか知らない。けれどみんな、思い思いの終末を過ごしているんだろう。恋する人と、愛する人と共に、日本にさよならをするために。

「シズちゃん、大好き。愛してるよ」
「ああ。臨也、俺も好きだ」

今までで一番の爆発音が遠くから迫ってくる。ニュースで政府が言ってた通り、富士山が噴火したんだろう。あー、今度こそ終わりだ。でも、別に淋しくなんかないな。

「愛してる」

世界が終わろうと、俺たちは幸せだった。
それだけだ。


ゼロで割ったシャングリラ

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自然災害もの大好き。




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