「あたしたちってさ、ちゃんと付き合ってんの?」

あたしの突然の質問に驚いたのか(あの、あの結城が?珍しい)、昼寝の最中だった結城はぴくりと肩を揺らして、それから額に乗せていた腕を緩やかに外した。

「……は?」

理解できない、という風に零された疑問符。私はそれを素直に飲み込む。
寝起きで焦点の合わないらしい眼を、結城は怠そうにこちらに向けた。綺麗な黒い双眼と、それを縁取る長い睫毛。つい、見惚れてしまう。

「ねえ、結城」

催促をひとつ、申し訳程度にかけてみる。
ひんやりとしたアスファルトの壁が、背中越しに、夏の昼下がり、温い空気を緩和するのが心地いい。

「……違えの?」

投げやりな返答に、一瞬、息が詰まる。ちらりと右隣を見やると、結城は錆びたフェンスの向こう側に視線を向けていた。
日陰の筈なのに、どこか眩しそうに目を細めて。

「本当に?」
「そー言ってんじゃん」
「信用できないんだけど」
「ひっでぇなあ」

口ではそう言いつつも、意識は目下のグラウンドへと注いだままなのだ。正確には、グラウンドで青春の汗をせっせと流している女生徒達の背中へ。
理由は簡単、「透けている」から。
男子という男子が皆、こんなにやらしい生き物じゃないとは分かっているけど、でもなあ。じとりと睨みつけてもどこ吹く風の態度には、流石に苛立ちを覚えざるを得ない。

「でもあたし、」

自棄になって言う。少しは、このいい加減なエロ男子の心に響けば良いんだけど。

「結城に『好き』って言われたこと、一度もないし」

そうなのだ。
告白したのはあたし、先に好きになったのも、多分あたし。記念日を祝うのも、プレゼントを送るのも、あたしばっかり。向こうはといえば、「ああ、忘れてたわ」の一言だけで。こんなの、まるであたしが貢いでるみたいじゃない。あたしだけが結城のこと好きで、無理矢理気持ちを押し付けてるみたいじゃない。

(……ほんとは、そうなのかな)

無茶言って付き合ってもらってるのだけなのかな。あたしの自己満足で、我が儘だったのかな。
でもあたしだって、青春のひとつやふたつくらいしてみたいんですよ。少女漫画みたいな、とまでは望まないけれど(あたしには到底似合わないだろうし)、それなりに、素敵な恋って奴を。
あー、悔しいなあ。どっかにいないのかな、縁結びとか良縁とか、そういう感じの都合のいい神様。
不安とか後悔とかでもう頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃって、どうしたら良いか分かんなくなったあたしは、なすすべもなく、体育座りの膝の間に顔を埋める。スカートがめくれ上がってしまうのはご愛嬌というか仕方がない。伸ばしっぱなしの髪が、欝陶しくばさりと顔に掛かった。

「……あー……」

がしがしと頭を掻き、結城は唸り声を漏らす。ほら、答えらんないじゃん。拗ねるように溜息を落とすと、その直後。
結城はあたしに向かって爆弾発言を投げつけてきた。

「……だって俺、お前のこと好きじゃねーし」

え?
目から鱗……あれ、ちょっと違うかな、とにかく、物事を根底からひっくり返すその一言に、あたしは愕然とする。

――「今、なんて?」

そう聞き返したいのは山々なんだけど、

「……そう……なん、だ」

実際は適当な相槌を返すので精一杯。え。嘘、ちょっと待って。何それ。もしかして本当に、「付き合ってる」だけ?そう思っている間に、あたしの視界はどんどん歪んでぼやけてくる。目の前がよく見えない。急速に息がしづらくなって、あ、もう、ダメだ。泣く。

「馬鹿、泣くな」

控えめなリップ音があたしの唇でした。びっくりして思わず瞬きをする、ぱちり。途端に涙は粒になって私の頬を伝って滑り落ちて、それからすぐに見えたのは、結城の顔、だけで。
あ、れ?

「勘違いすんな。好きなんかじゃねえが、あー、その、……愛してんだよ」

砂を吐きそうになるほど、どろどろに蕩けた甘い言葉。驚きのあまり、はく、と口が動く。予想外の出来事に私が何もできないでいると、むすっと黙り込んだ結城の顔が、勢いよく離れた。手の甲で唇を擦り、叫ぶ。

「だああああ! やっぱり似合わねー! 恰好悪ぃ、くそ、忘れろ!」

勝手にキスしやがって、むず痒くなるような理不尽な台詞まで吐いておきながら、その顔は耳まで真っ赤に染まってるものだから。
畜生、狡い。

「格好つけるなら最後まで決めたら?」
「……結構頑張ったんですけど?」

苦笑しながら、結城があたしの顔に手を伸ばした。頬に添えられた手の平は思っていたより大きくて暖かくて、また涙が零れそうになる。眦に結城の親指が滑る。拭き取られる雫に眩暈がした。

神様、ごめんなさい。私にも青春はやって来ていたようです。


あおいはる、
(スパッツくらい履いてろよ、逆に萎える)
(……死ね変態)

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暑いのです。暑いから、血迷ったのです。
私は悪くないです。
暑いのが悪いのです。

書いてて楽しかったけど、冷静に読み返したら気持ち悪かったです。
皆さん、バケツはこちらです。おぼろろろ。




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