「つがる!」

カーテンを開くなりサイケが叫ぶ。なにやらきらきらした眼差しを外に向けながら俺を手招きしているのだが、生憎俺はまだこのぬくい布団から抜け出せそうにない。

「どうした」
「あのねっ、外!お外見て!」

布団を掻き寄せ包まったまま、重い足取りで近付けば、サイケは外を指差した。見れば、そこかしこに広がっている冷たく白い塊たち。

「……雪か」
「はつゆき!」

しかも積もってる!と声を弾ませたサイケが、ガラリと窓を開ける。早朝特有の、突き刺すような冷気が、部屋の中に入り込んで渦を巻いた。

「きれい……」

うっとりと夢見るように呟いて、サイケは柔らかく嘆息した。その息は当然真っ白だ。綿菓子みたいで甘そうだな、なんて、一瞬血迷ってみたり。
ふと足元を見ると、昨夜の夕刊が落ちていた。拾い上げてなんとなく天気の欄を見れば、列島各地に点々と、雪のマークが散らばっている。この冬一番の寒さだとか書いてあって、成程、それじゃあ雪だって降るわけだ。
くしゅん、と控えめなくしゃみが響いた。目線を夕刊からすぐ隣に移せば、手と手を擦り合わせたサイケが、恥ずかしそうに苦笑して。

「えへ、ごめん…」
「寒いな。閉めようか」
「あっそれはだめ!もうちょっと!」

顔や鼻の頭を赤らめながら、サイケはじっと外を見ていた。真っ白に輝く氷の粒たち。きっと昼を迎える前にはすべて溶けてしまうだろうそれらに、何とも言えないやるせなさを感じて。
包まっていた布団を広げ、そのままサイケに覆いかぶさる。薄っぺらい背中をぎゅうぎゅう抱きしめながら、頼りない肩に顔を埋めれば、サイケはぎゅっと布団を引き寄せた。

「つがる、あまえんぼだねえ」
「サイケが風邪ひいたら、困る」
「しんぱいしてくれるの?」
「…看病、したこと…ないから」

わざとらしい言い草になってしまったかと心中で悔いていれば、案の定、サイケも「ありがと」と小さく笑う。でもまあ、布団の中がぬくいのは本当だから。
冬の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、俺たちはひたすら、朝日に光る雪を見つめていた。


有り余る一瞬では息すらできない





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -