あれから一年



「ねえシズちゃん聞いてほしいんだけどっていうかどうにかしてほしいんだけどここ最近なんでこんなに暑いのかなだってもう9月も半ばだよね暦の上でも秋来てるはずだよね変だなあ一向に涼しくなる気配がないんだけどこれってやっぱ地球温暖化的なアレだよね俺の大好きな人間どもが頑張りやがってるからだよねああ畜生これだから人間ってものは面白いまったく俺ってば人ラブ!」
「で?」
「ちょっとシズちゃん頼まれてくれるかい、人類殲滅とやらを」

暑さに茹だる俺にシズちゃんは胡乱な目を向けた。つれない奴だなあ。

「ついに本格的におかしくなりやがってノミ蟲野郎」
「おかしいのは気温の方だよ。真夏日とか言われても夏じゃないじゃんおかしいじゃん」
「じゃんじゃん煩えな煮込むぞ」
「やだ暑い」

回らない頭じゃ上手な切り返しもできやしない。ああやだ、困った。口が達者なのが俺の売りの一つなのにな。

「手前去年の夏も同じようなこと言ってたよな」
「…そうだっけ」
「暑い暑い騒いで氷食って、ああ、そういや祭行くのにもごねてたよなあ」
「……」

ぐでんぐでんに伸びきった記憶を引きずり出せばそんなこともあったようななかったようななんて気もする。うーん、どうだったっけかなあ。
考える手間も惜しいのでそのまま何も言わずに寝転がったままでいれば、シズちゃんは所在なさげに頭を掻くとそのまま台所まで歩いて行ってしまった。
永遠の21歳なんてほざいている俺もやっぱり老化には逆らえない訳で、気がつけば一年があっという間だったなあなんて思い返すような歳になっていた。昨年何をしてたのかも、面白くて堪らなかったこと以外になると細かくは思い出せなかったりする。やっぱ歳には勝てないんだねえ、時が経つのは早いもんだ、なんてねー。

「臨也」

仰向けになっていた視界に、ん、と差し出されたのはどうやら氷水。結露した雫がコップから落ちて、左目にぴしゃりと落ちた。冷たい。

「飲め」
「……うん」

気怠く重たい上体を、のそりと起こす。予想外の優しさがなんだか気恥ずかしい。
コップを受けとって水を喉に流し込めば、身体の芯がすっきりと冷えていく。相変わらずクーラーの効かないシズちゃんの部屋は熱気を纏ってむんむんしっぱなしだけど、対して俺の体内は爽快だ。シズちゃんもたまにはやるじゃない。

「ありがとねえ」
「おー」

見上げた彼もやはり暑さには敵わなかったらしい、ごくごくと喉を鳴らし氷水を飲みこんでいた。上下する喉仏がなんとなく男らしくって、ちょっとだけぐっと来たのは内緒。悔しいのでそれとなーく目を逸らすと、シズちゃんが氷をがりごり噛み砕く音がした。

「……いざあ」
「は?」

その不明瞭な発音には何やら覚えがあって、俺はもう一度上を向く。するといつの間にやらシズちゃんは俺を覗き込むようにすぐ側まで迫っていたらしい、見上げた拍子に勢いよく、俺の口にかぶりついてきた。
……あー、はい。やりたいことは分かりました。
薄く口を開けば案の定、シズちゃんの唇から落ちてくる細かな氷たち。今にも溶けきってしまいそうなそれらを甘受しながら、俺はいよいよ、一年前をできるだけくっきり思い出すことに力を込める。人類殲滅はまあ、その後でもいいや。


いといとしとこころ
(かわらないのもよいことですので)

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昨年を懐古する恋の話。




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