これのつづき



シズちゃんは部屋に入り扉を閉めたは良いものの、そのまま入り口から動けないようだった。だって音何もしないもん。

気配だけで状況を察するのもそろそろ難しくなってきたので、俺は重たい腕でタオルを外す。視界が開け、部屋の明かりが眩しく目に突き刺さった。首を動かすのもかったるいので目だけをドア付近に向ける。すると案の定、シズちゃんは背中を扉にくっつけたままきょときょとと視線を泳がせ、俯いている。

案外大人しいその様子に俺はなんだかこそばゆさを感じて――だってなんだかそれは、俺の体調に気を使って声をかけあぐねているみたいで――握ったままだったタオルをシズちゃん目掛けて投げ付けた。しかし当然というかなんというか、寝たまま投げたそれは変な軌道を描き、シズちゃんに届くこともなくフローリングにべしゃりと落ちる。あは、新羅ごめん。まだ怠さを訴える身体に無理を言わせ、上半身だけ起き上がり、来たるべき脅威に備えた。

「何の用」

さっきまで散々新羅と喋ってたはずなのに何故か俺の喉は乾いていて、気軽に話し掛けたつもりでもからからに掠れた声が出てしまった。何これ。無残に落ちたタオルにびくりと驚いていたシズちゃんも、俺の声の異変には気付いたらしく、「おい、」なんて眉根を寄せながら駆け寄って見せる。

「大丈夫か」
「何?君が俺を一丁前に心配するっていうの?ぎりぎりになるまで俺を引き止めて邪魔したのは君だよね、君のせいだよね、今更そんな慰めみたいなもの要らないんだけど」

心なしかおろおろしてるみたいなシズちゃんの態度が何だか妙に気に障って、今は攻撃されても反撃できないとは分かっていたのについ、必要以上に言い返してしまった。つまるところいつもの虚勢だ。みっともないとか言うな。

けれどシズちゃんはそこで腹を立てて俺を殴ったりはしなかった。それどころか何か気まずそうに頭を掻きながら、放ったままだったタオルを拾ってみせる。

「分かった、うん、その……悪かった」
「はあ?何が?ちょっとシズちゃん、君おかしいよ。いつも以上に」
「あー…えっと。悪い…、うん、だから……泣くな」

泣くな?ちょっと、別に泣いてなんかないんだけど。反論しようと思った瞬間、じわ、と目に滲む、覚えのありすぎる何か。

「え?…あれ?」

ぼたぼたと掛け布団に染みるのはどう考えても俺の目から落ちた涙だ、って、は?なんで?さっき止まった筈だろ?

どうして良いか分からなくて取り敢えず袖で目尻を拭うと、遠慮なく涙は滲み、カバーしきれないほどの量の水が溢れ出してきて、ああもう、訳分かんない。なんでまた泣くんだよ俺。不透明になる視界に耐え切れなくなって、俺は目元を擦りながらぎゅっと瞼を閉じた、その時。

「臨也」

煙草の匂いが鼻を掠める。と同時に布団以外の何かに俺は包まれた。温かいその何かは俺の目元にタオルを押し付けて、そのまま背を摩り、ぎゅうぎゅうと乱暴に抱きしめてくる。突然のことに俺は固まるしかない。成されるがまま、シズちゃんの腕の中に収まり、そして抱き着かれた瞬間に止まった涙に戸惑うしかなかったのであった。え、マジ何これどゆこと。

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もうちょい!




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