月並みな言葉じゃきっとあいつは喜ばない。自分は不特定多数を平等に愛している癖に、俺にはたった一つの特別を求めてばかりなのだから。そうと言っても不自然に気取った言葉を贈るのも憚られる。何かを飾り立てるのは元からあいつの得意分野だし、それに俺の性にも合っていないのだ。真っ直ぐ、言いたいことだけを伝えられれば、俺はそれで良いと思う。だから。

「ありがとう」

俺はそれしか言ってやらない。当然目の前の奴はぽかんと間抜けに口を開けて、俺を怪訝そうな眼差しで射抜いた。

「どうしたのシズちゃん。いきなり何」
「いや、別に……」

意外にも本人は、今日が何の日か気付いていないようだった。まあ恐らく他人に夢中になりすぎて、自分の事なんかいちいち覚えておくのも面倒なのだろう。こいつらしいと言えばそうなるけれど、恥を忍んで告げた身としては、中々やり切れないものがある。

「別に、じゃないでしょ。君がいきなり感謝するなんて。しかもこの俺に!」
「自覚はあるのか」
「ねえ、何。俺何かしたの?それとも明日は雹が降るんだっけ?」

くいとその細っこい手で俺のバーテン服を引っ張る臨也は、悪態を付き返すには余りにも細すぎた。疑問符を浮かべながらも臨也は、口角を上げていかにも楽しそうに俺を見る。未知の領域への好奇心が奴をそうさせるのだろう。俺はそれが面白いと思った。普段どんなに渇望しても与えられない、奴からの興味の視線。

「ねぇねぇ、シズちゃん」

案外心地良いものだったそれをもう少し味わうべく、暫くの閉口を俺は決めた。
安心しろ臨也、日が変わるまでには思い出させてやるからよ。それまではせめて、俺でお前をいっぱいいっぱいにさせてくれ。


口が滑ったんだ
(生まれてきてくれて、ありがとう、だなんて)

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臨也さん並びに小野D、おめでとうございます!




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