※非常に短い
「いっちゃだめ」
シーツから零れた白い腕が、俺のシャツの裾を弱々しく掴んだ。
バーテン服に腕を通していた俺は思わず固まる。
「しずちゃん」
蕩けた紅い目が、俺をぼんやりと見つめている。ゆらゆらと揺れる瞳が、寂しさを嘆いて泣いているようだった。
その首筋に色濃く残るのは、情事の後に付けたキスマークだ。所有印だなんて、そんなおこがましいこと言わない。ただ俺がこっそりと、臨也の記憶の中に刻められたらと、我が儘に付けた痕。
「……りない」
「臨也…?」
「たりないよ、ぜんぜん」
シャツを握る手に力が込められて、その裾にぎゅうと皺が寄る。形の良い、桜貝みたいにぴかぴかな爪が白くなるくらいに、俺を引き留めようとしてくれているのだと――それだけで俺は勘違いしてしまいそうになる。
寝起きのまどろみで紡がれた囁きに、決して絆されることのないように。
「キス、……して、?」
それでも、たどたどしく告げられたその声に、俺は僅かでも期待してしまうのだ。
この恋が報われないということは自分がいちばん分かっていた
(けれど重ねた唇はあくまでも暖かい)
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健気な静雄さんとイザビッチ。
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