※鎖骨好きすぎて頭おかしな臨也さん



率直に言おう。
俺、折原臨也は鎖骨フェチである。
街中を歩いているときに素敵な鎖骨(素敵、という基準は一概には説明できない。これはあくまで俺個人の感覚だし、同じ趣味を持っている人でなければ到底、この感覚は理解できないだろう)を見付ければ反射的に目で追ってしまうし、取引相手が色っぽい鎖骨を持っているのなら、少しは提供する情報に色を付けてしまう。この程度には、俺は鎖骨の事を好んでいるのだ。というか俺が情報屋を営んでいるのは良い鎖骨を見つけるためと言っても過言では、……いや過言かも知れないけれども、しかしまあ相手の鎖骨を楽しみに仕事をしている節もあるのだから、あながち間違ってもいないのだろう。人、ラブ。鎖骨、ラブ。鎖骨を持っている人類はなんて素晴らしいんだろう。
しかし俺は、何ということだ、この愛すべき人間たちを超越した存在の持つ鎖骨に魅了されてしまったのである。

平和島静雄。

非常に嘆かわしい事に。俺の大嫌いな、平和島静雄の、それが、……あああああもうむかつく。こいつにこの魅惑の鎖骨が無ければ今すぐ殺してやったのに。無神論者だけど神を呪ってあげよう。ちょっと降りてこい。

ということをシズちゃんに告げると、彼は苛立たしげに頭を掻いた。

「たかが鎖骨だろ?何そんなムキになってんだ」

煙草をぐりぐりと灰皿に押し付けるシズちゃん。君は今全世界4億8000万人の鎖骨フェチを敵に回してしまったね?俺が睨み付けるのもものともせず、シズちゃんは胸元から新しい煙草を取り出し、火を点ける。そこで僅かに開けた襟元から、さ、鎖骨、が…わああああ…。

「大体こんなの誰のでも変わんねえよ」
「馬鹿なの?死ぬの?」

君は自覚が足りないんだよ、どんなに自分の鎖骨が素晴らしいのかってことに、もっと関心を持つべきだ。
鎖骨の大きさ。広さ。深さ。首筋から胸元までのライン。骨の浮き出具合。肌と肩とのバランス…君の鎖骨は、俺が今まで出会った鎖骨の中でもダントツに魅力的なんだよ。もう、俺がこれだけ褒めてやってるっていうのにシズちゃん、君って人は!
とここまで熱心に語ったところで、シズちゃんは口から煙を吐き出すのをぴたりと止めた。

「ちょっと待て」
「何」
「手前、触ったって言ったな」
「そうだけど、え、それが何」
「手前は他の奴らの鎖骨に、いつ触った」
「いつってそんなの、寝てるときに決まってるよ。もちろん性的な意味でね?」
「あぁ?」

いやだって仕方ないじゃん。鎖骨触らせてくださいなんていきなり迫って、引かない人なんてそうそういないでしょ?俺顔は良いからその方が手っ取り早いし。

「鎖骨の為に女と寝るのか」
「男ともね」
「……好きでもねえ奴と、寝るのか」

仕方ないだろ鎖骨拝む為なんだから。勘違いしないでよ、良い?俺は鎖骨が好きだから、鎖骨と寝てるの。ここ重要。ていうかもう良いでしょ?何なのシズちゃん。

「…手前、もうそういうの止めろ」

はあ?意味分かんないどうして君なんかに俺の趣味止められなきゃいけない訳?
シズちゃんはまた煙草を灰皿で潰した。良いの?それ、まだ吸い始めたばっかりだったのに。シズちゃんの鳶色の目が、俺を捉える。

「手前は俺の鎖骨が好きなんだろ」

……まあ、うん、悔しいけど君のが今まで見た中じゃ一番だけど。

「なら、手前にこの鎖骨好きなようにさせてやる」
「!?」

え、ちょ、ま、本当に?何しても良いの?

「ああ」

じゃあ触っても舐めても噛んでも吸ってもアレしてもナニしても?良いの!?

「ああ」
「嘘っ!!うわあ、え、…シズちゃん正気?えっ、えっ、うわああああ!!」
「その代わり」

シズちゃんはそこで言葉を切った。眉を潜め、何かに悩んでいるみたいだ。
何?条件?いやこの際何でも良いよ!お金でも暮らしでも俺にできる限り完璧に保障してあげる!!さあ言ってごらんシズちゃん!!
シズちゃんがまた俺を見る。そして俺の肩を両手でがしりと掴んだ。

「手前、俺と付き合え」

なんだそんなこと?おっけーおっけー余裕で約束してあげよう!じゃあ今日から俺は君と付き合――え?

「交渉成立だな」
「は?なっ……は?」
「よしノミ蟲、今日から手前は俺のもんで、俺の鎖骨は手前のもんだ」

えっ、それ俺の取り分少なくないかな…じゃなくて、なんで、えっ?

「これからよろしくな、臨也?」

……ど。どういうことなの。
半笑いの俺の背中を、冷や汗がたらりと伝った。



触れたい
(文句あんのか)(文句しかないんだけど)



とまあこうして俺たちのぎこちない交際は始まった、始まってしまった。
暫く付き合ってみて分かったのだが、どうやらシズちゃんは俺が鎖骨を撫でることがお気に召さなかったらしい。聞けば(あまり口が達者でない彼の話を要約したところ)、俺が鎖骨だけを構うことに不満を覚えていたというのだ。いや君が俺にくれた鎖骨なんだから何したって良いじゃないか。しかしシズちゃんの「その前に手前は俺のものだろ」というジャイアニズム全開な取引内容に丸め込まれ、押し切られ、絆されてしまった俺はとうとうついに、「シズちゃん」の鎖骨フェチ…というか、し…シズちゃんフェチ、に、なってしまったのだ。…ああああなんてことだ!
最後にひとつ、おい、そこで笑った君。まずあの鎖骨を持つシズちゃんにでろでろのどろどろに甘やかされてしまってもみろ。あの天下の漢前だぞ。無自覚のイケメンだぞ。もうそうなるしかないというか、ならざるを得ないというか、とにかく自分じゃどうにもできないだろう?いや、どちらかと言えばそれに抵抗しきれなかった自分が悪いのだけれど、まあどちらにしろ、俺はすっかりシズちゃんのことを好き(笑)になってしまったのだから、これはもう、どうしようもない。
シズちゃんの鎖骨を独り占めすることはできた。けれど結果的に、全てを間違ってしまったんじゃないかとあの時の自分を悔いたり褒めたり呪ったりな、俺なのだった。

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どう見てもタイトル詐欺

素敵企画君色中毒様に提出。
ありがとうございました、すみませんでした!




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