こちら、社会主義委員会です。 | ナノ
「幸福なのは義務なんです!」
「「幸福なのは義務なんです!!」」
「幸福なのは義務なんです!」
「「幸福なのは義務なんです!!」」


「……えっと」

落ち着いて考えよう。
今は朝。生徒が本格的に登校し始める時間だというのに、ここ1-2の教室の前には人だかりができている。
その中心にいるのは……悩むまでもない、赤嶺君だ。隣には兎頭の上級生。どうやらまた何か面倒事を起こしたらしい。
俺……氷室優は深くため息をついた。
謎の集団は依然、謎の標語を連呼する。このままでは教室に入れない。兎に角妙なプロパガンダをやめさせないと。
俺は人混みをかき分け、赤嶺君の前に向かった。
「やあ、同志よ」
「同志じゃないよ! 赤嶺君! 通行の邪魔になるからこういうことはやめて!」
「……ほう。やめろと言うか」
赤嶺君の目が、彼が普段持っている鎌のように細くなった。
「じゃあ貴様は、我々の思想に賛成できないということか」
「社会主義の話は今はいいの! プロパガンダなら別の所で……」
「同志兎々介よ」
俺の言葉を無視して、赤嶺君は隣の生徒に話しかけた。
兎頭の彼が薄汚れたバットを取り出す。……バット?
「あ、資本主義者っスか?」
「残念ながらそのようだ。何、我々の手にかかれば考えを叩き直すことなど雑作もない」
「えっ、ええ?」
「俺も正直、社会主義とかよくわかってないんスよ。レーニン?とか言うんスか……まあでも、なんか資本主義者は殴っていいって言われたし、資本主義者は一杯いるし……殴れるんならいいかなー、って」
「ええええ!?」
赤嶺君はとんでもない人を、自分の仲間に引きずり込んでいたらしい。多分『叩き直す』って物理的な意味で、だ!

「幸福なのは義務なんです!」
「幸福なのは義務なんです!」
また例の大合唱が開始された。それをBGMに、兎頭の彼がバットを提げて近づいてくる。
俺はようやく、彼のことを思い出していた。ニノサンの浅島兎々介……とにかくやばい奴。この非常識な学園でそんな評価を得ているとなればつまり、並大抵の異常さではない。

朝の廊下に似合わない状況に、頭がクラクラしだす。彼の可笑しな兎顔が目の前に迫る。
あと五メートル、二メートル……拭いきれなかった血が付着するバットが揺らめいて……。


「駄目だよ」
兎々介先輩のバットがピタリと止まった。
俺の後ろに立っていたのは、
「……哀川さんっスか……」
「氷室君に何かしたら……わかってるよね」

哀川さんの目は、無表情だけど、今まで見た中で一番怖い目をしていた。俺といる時には絶対に見せないような表情だ。
「そっスね……やめとこ」
兎々介先輩は大人しくバットを下ろす。
「な、どうしたんだ? 同志兎々介……その男は一体何だ!」
「ねえ、そこの君」
うろたえ始めた赤嶺君を、哀川さんがじろりと睨む。
「俺の氷室君に手出したら、許さないから」

教室の前の人だかりから、何故か歓声が湧いた。



「哀川さん……皆の前で言うのは……」
「だってああでも言わないと」



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