箱 | ナノ


教室の扉を抜けると教室であった。


いや、この説明で何が起こったのかわかる人間などほとんどいない。そう増長は思い直した。傍らの吹き出しには『ありのままに今起こったことを話すぜ』と何処かの漫画の口上が表示されている。
どうしてこうなったのか――増長は先程までの出来事を思い出していた。
放課後、夜臼と帰る時に増長は筆箱を忘れ、教室に取りに行った。すぐ戻るからと夜臼をその場に待たせ、1年1組の教室で筆箱を回収。そして廊下に出ようとしたところ、冒頭の場面に繋がる。

「……眼鏡の度が合わなくなったんでしょうかねえ」

半ば呆然とした面持ちで増長が呟いた。念のため彼女は教室の窓、そして元々増長がいた教室の扉を出た先にあった教室(彼女はそれを教室bと名付けた)の全ての窓と扉を開けたが、ただ同じ教室の風景が続くだけだ。
増長は、延々と教室が連なり続く空間に閉じ込められた。


「似たような設定の映画がどこかにあったような……」
増長の独り言も無機質な教室の群れの中で響くだけだ。

――この学園に七不思議があるとは聞いていた。これもその一種?

増長はオカルトを信じる人間ではないが、この状況の中ではその可能性を否定できなかった。
「とにかく、進んでみないことには状況は変わらないでしょうな。変わるとも思えませんが。しかしトラップにかかって、賽の目状に切り刻まれるのだけは避けなければ――」

ぶつぶつ呟きながら増長は進む。
幾つの教室を過ぎただろうか。
初めは教室c、教室dと黒板に描いていくことで自分が何処にいるのかわからなくなることを避けようとしていたのだがzまで使いきってしまったので増長はそれをやめた。
同じ教室は尚も続く。どの教室も夕日の光を切り取って部屋に置き去りにしたようにぼんやりとオレンジ色に染まっていた。

この世界には私一人だけなのか。二度とこの世界からは出られないのではないか。
そう増長が考え始めた時だった。

「……人が」

思わず、増長は目を擦る。次の教室に二つの影が見えたのだ。
一人は学生のようで、白衣を着ている。前髪のせいで顔はよく見えない。
もう一人は学生ではなく、かといって教師でもない。黒いタートルネックのその男は増長に背中を向けていた。

「佐波殿と……もう一人?」

吹き出しが『ξ^鯖^ξ』と緊張感のない顔文字を吐き出した。

つづく?



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