氷の宝石 | ナノ

昼休み、校舎の一階の端に存在する保健室には、普段見かけない生徒が訪れていた。
「珍しいな、月読がここに来るなんて」
鏡藍に月読と呼ばれた、この学園の生徒会長……月読六斗は穏やかに言葉を返す。
「委員会の仕事をしていた時に、ちょっと」
月読の手には刃物で切り裂いたような傷があった。鏡藍が消毒液を着けると、微かに月読が身じろぐ。
「生徒会の業務を普通に行っていたらこんな傷ができるはずないんだがな」
「普段はこんなことありませんよ。ただ、この学園の生徒には元気な人が多いですから」
「そうか。……終わったぞ」
傷の処理を終え、鏡藍が顔を上げた。自ずと鏡藍と月読が向き合う体勢になる。
月読の目が、鏡藍の瞳に映りこんでいた。

…………この人には効くんだろうか。

この学園をまとめる生徒会長の考えは、ほんの気まぐれからだった。
月読の瞳孔が少し大きくなると同時に、その青が妖しい輝きを増す。
なんて綺麗な目だ。
……欲しい。
鏡藍の喉がごくりと鳴った。鏡藍には、今まで見てきた無数の目玉の中でも月読の瞳に勝るものはないように思えた。

今すぐこの瞳を、目玉を取り出して触れてみたい。きっと氷のように冷たく、滑らかなのだろう。
それを想像した鏡藍の中の狂気が首をもたげ始める。
月は人を狂わせるというが、既に狂っている人間に効く訳もない。

……駄目か。

「先生、ありがとうございました。僕はこれで」
「あ……ああ」
月読は椅子から立ち上がり、保健室から去る。
鏡藍といえば終始とり憑かれたように月読の目を追っているだけだった。





---昨夜、XXX県XXX市で女性の死体が発見されました。
死体には眼球が両方とも無く、また、周囲には精液が---
---強姦殺人の可能性も---



「ねえ、ニュース見た?」
「怖いよね……殺された人の目が無くなってたとか」
「しかも犯人って、その場で一発抜いてたんだろ? 変態じゃないか」
「ひ、ひじきちゃん。あんまり大きい声でそういうの言わない方が……」
「…………」


「どうしたの? カルラちゃん」


2012/6/23 世にも的な落ちにしたかったけど失敗



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