保健室にて | ナノ


「どうしたんです、これ」
保険医の鏡藍は、ひじきえもんの膝の上に鎮座する青白い大福を一瞥した。
「きめぇ郎とか言ったかな。いつもは折鶴と一緒にいるんですけど、はぐれてしまったみたいで」
ひじきえもんはそう言うときめぇ郎の頭を撫でる……というより押し潰した。
特に抵抗もなくきめぇ郎の顔はぐよぐよと歪み、その度にきめぇ郎の口から恨みがましい声が漏れる。
「はあ……返してあげたほうがいいんじゃ」
鏡藍はきめぇ郎から一歩引く。普段の眼球愛好っぷりは影をひそめていた。
子どもの落書きじみた顔のひじきえもんときめぇ郎が相手では振るわないのかもしれない。
「今頃、折鶴もきめぇ郎を探していると思います。いずれ保健室にも来るでしょう。下手に探しに行くよりも、ここでこうして待ってる方がいいんですよ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんですよ」
断言するとひじきえもんは器用に半回転した顔で熱いお茶をすする。
どういう喉の構造をしているんだと鏡藍が聞けずにいると、保健室の扉が勢いよく開かれた。
「鏡藍先生! きめぇ郎見ませんでしたか?」
「そこにいるよ」
「……あっ」
入ってきた少女……折鶴はきめぇ郎の姿を見つけると一目散に駆け寄り、その腕に抱きあげた。
「元気そうでよかった」
折鶴がぎゅっと抱きしめると少しきめぇ郎の体が潰れる。だが、きめぇ郎はまんざらでもないらしい。
「よかったな。もう目を離すなよ」
「ひじきえもん先生が保護してくれてたんですか?」
「ま、そんなところだ」
何度もお礼を言いながら、折鶴は去って行った。
再び保健室に平穏な空気が流れる。
「ところでひじきえもん先生、あれをどこで見つけたんですか」
「体育館に転がっていたところを……」
ひじきえもんが全てを言う前に、また先程より大きな音を立てて扉が開く。
折鶴が、息を切らしながらふらふらと保健室の中に入ってくる。
「どうしたんですか。折鶴さん」
鏡藍にそう聞かれると、折鶴はバツが悪そうに下を向いた。
「さっき転んだ勢いできめぇ郎を放り出しちゃって、どこかに転がって行ってしまったみたいなんです。あの、先生、探すの手伝ってもらえませんか?」
ひじきえもんが派手にむせた。

2012/2/6 落ちてない。

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