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それぞれの苦手意識




「降谷!」



「・・・・お前か」



久しぶりに公安の方に戻ってきていた降谷は、後ろから名を呼ばれて振り返った。



「お前は・・・;人の顔見た後にため息を吐くなよ」



やれやれと、苦笑いしながら近づいてきたのは、同じ組織へと潜入している男、緋色光だった。



「お前の顔は見飽きた」



「見飽きたって・・・、失礼な奴だな。同じ組織に潜入してる仲間だろ?」



グイッと降谷の肩へと腕を回す緋色。彼はニッと笑っているが、降谷の表情は嫌そうな色を浮かべていて、自身の肩に回っていた緋色の腕をペシッと叩き落とした。




「たまたまだ。いいか、絶対に俺の足を引っ張るなよ?」



それだけ言うと、降谷はスタスタと去っていこうとした。



そんな彼の後姿を見て、緋色はもう一度「やれやれ」と困ったように笑い、溜息を吐いた。



「お前は肩に力が入りすぎなんだよ。たまに抜かねぇとまいっちまうぜ?」



先ほど叩き落とされたばかりなのにも関わらず、また背後から彼に近づき肩へと腕を回した緋色。



「・・・・・・」



嫌そうな表情を隠そうともせず、降谷はすぐ真横にある緋色の顔を見た。



「今日、この後暇だろ?ちょっと付き合えよ。俺がお前に息抜きを教えてやる」




「はぁ?何言ってんだお前は・・・」



「いいからいいから」



怪訝な表情を浮かべる降谷の背をグイグイ押して、緋色はある部署へと向かった。




「おい、俺は今からやらなきゃいけない事が・・・・」



あるから離せと言わんばかりの降谷に「まぁまぁ」と軽く流す。



「やらなきゃいけない事って、別に急ぎでもねぇだろ?」



「急ぎだよ!」



「お前じゃなくてもいいんだろ?」



「・・・それは、」



「じゃあ風見に俺が言っとくから、たまには息抜きするぞ」



もう何を言っても無駄なような気がする。と降谷は「はぁー・・・」と大きく溜息を吐いた。



降谷はどうにもこの男、緋色光が苦手であった。真面目か不真面目かと問われれば間違いなく不真面目、今のような訳のわからない強引さ、何より自分に絶対の自信を持っている降谷はなぜこのような男が、自分と同じ任務を任されたのか納得がいかなかった。



関わるだけ疲れる、そう思って出来るだけ関わらないようにしてきていたのだが、同じ任務に就いてからというもの、事あるごとに絡んでくるようになった緋色に対してどう接していいのかが分からなかった。



出来るだけ躱そうとするのだが、今のようにほぼ強制的に彼のペースに巻き込まれ、毎度彼との距離を空ける事を失敗するのだ。



今日もまた躱そうとしたのだが彼の「風見に・・・」の言葉に逃げる機会を失ってしまった。







「椎名!」




「はい?あっ!!緋色先輩!!」



ある部署に行き、知り合いの女性でも見つけたのだろう。緋色が名を呼べば、クルッと振り返った彼女は、何度か見たことのある顔だった。




「久しぶりだな」



「もう!本当にお久しぶりです!相変わらずイケメンですね!」



「ははっ、ありがとう。そういう椎名も相変わらず綺麗だよ」



「またまたぁ〜」



お互いを隔てている長机に腕を置き、中腰でニコニコと話す緋色に、同じくニコッと笑いながら近づいてくる彼女は確か椎名胡桃だ。



「・・・・・・・」



どんな会話だよ、と思いながらも呆れたように溜息をつけば、椎名が俺に気が付いたようで、目をキラキラさせた。



「降谷先輩!緋色先輩、今日は降谷先輩連れてきてくれたんですか?」



ちょっと、緋色先輩邪魔です、と言いながら椎名は降谷の前にヒョコッと顔を出した。



「おいおい、さっき俺にイケメンですね、って持ち上げといて降谷がいると分かれば眼中になしか?」



「緋色先輩もイケメンですけど、降谷さんがいるなら降谷さんの方がいいです」



あぁー、目の保養になります!なんて笑顔で言われれば降谷は少し引きながらも「・・・ど、どうも」と一言呟いた。



「たく、女はこれだから・・・」



イケメンが居るとすぐ目移りしやがって、と愚痴る緋色に「何か言いましたか?」とカッターをキチキチ出し入れする椎名。



「イエ、ナンデモアリマセン・・・・」



両手を挙げて片言に言葉を発した後、緋色は降谷の肩に手を置き、項垂れた。



「女ってこえー・・・」



「・・・・それは否定はしないが、彼女はまた特別じゃないか?」



小声で話す緋色に降谷も同じく小声で言えば「はい?」と笑顔の椎名がいて二人は首をブンブンと振った。



「そ、そういえば用事があってきたんだ」



話を変えようと緋色が慌てて話し出した。



「でしょうね、何か用ですか?」



「切り替えはえーな、相変わらず・・・・;まぁいいや。トラ居るか?」



「トラ・・・・?」



彼から聞こえてきた名前に降谷は首を傾げた。



「あー、あの子に用ですか?いるには居ますが・・・」



そう言いながらチラッとある部屋へと目を向ける椎名。




緋色と降谷は顔を見合わせて首を傾げた。



「・・・会います?」



「なんかまずいのか?」



「まずいって言うか・・・ほら、あの子、緋色先輩に対してめっちゃ辛口じゃないですかー?」



「辛口以前にほとんど口聞いてくれねぇーけどな・・・;」



椎名の言葉に、ははっ苦笑いを零す緋色。



「余計に会わない方がいいかもですよ?今日滅茶苦茶機嫌悪いから・・・」



日を改めた方がいいと思いますけど?との提案に緋色はガシガシッと頭を掻いた。



「日を改めたら今度いつ、降谷と公安に来れるか分かんねーしな・・・」



今日だって久々に暇ができたんだし・・・



「降谷先輩はいつも忙しそうですもんね」



「おい、コラ。俺も意外に忙しいんだが・・・?」



「朝から上司にめっちゃ怒られて、反省文書かされてるんで近づかない事をお勧めしますよ?」



「シカトか・・・。まぁいいや。反省文って、あいつなにしたわけ?」



「・・・んー、まぁあの子自身が悪い訳ではないんだけど、会います?」



「おう。息抜きはあいつにも必要だしな、丁度いい」



「息抜き?」



「降谷が肩に力入りすぎてるから抜き方を教えてやろーと思ってな」



今から飲みに行こうと思うんだが、男二人だと華がねーだろ?とニッと笑う緋色に降谷は「聞いてないぞ!?」と抗議の声を上げようとしたが、椎名に遮られてしまった。



「私も行っていいですか!!?」



はいはい!と手を元気良く上げる椎名に「最初からそのつもり」と緋色が言えば「やった!」とガッツポーズをとる彼女に、はぁー・・・と諦めたように溜息を吐く降谷。



先ほど緋色が言った「トラ」とやらも一緒に行くのだろうが、そんな名前の女性はいただろうか?と考え始めた降谷。しかし、その答えはすぐに分かったのだった。









ガチャッーーーと戸が開くのが分かったが、一切顔を上げるつもりがなかった。



ペンを片手に落書きをしていれば、その紙を入ってきたであろう誰かに取られた。



「お前、書く気ねぇーだろ?」



顔を上げようとしたが、その声に誰か分かったため、顔を上げずに大きくため息を吐いた。




「・・・・何の用?」



「ははっ、椎名のいう通り、随分不機嫌だな」



「揶揄いに来ただけなら帰れ」



「冷たい事言うなよ、反省文とか・・・お前なにしたわけ?」



それと俺、ここでは一応先輩だからな?と言われて嫌そうな表情を浮かべながらそちらへと顔を向けた。



するとそこには声で分かっていた緋色の姿、そしてその後ろには近づきたくないと思っていた相手、降谷零、その隣には胡桃が笑顔で手を振っていた。



「・・・・・・・」



その様子を見て眉を寄せる唯だったが、それは緋色と降谷も同じだった。まぁ、理由は彼女とは全く違ったが・・・



「お前、どうした?この痣・・・」



グイッと顎を掴まれて上を向かせられる唯。目の前には真剣な表情で、少しだけ怒りの色が見える緋色の顔。



彼は、唯の左目から頬にかけてある青黒い痣に笑っていた表情をすぐに消した。



「・・・ちょっとね」



パシッと手をはたき、フイッと顔を背ける唯。




「朝から、その顔が原因で上司と大喧嘩。まぁ、大喧嘩っていうより、一方的に怒鳴られただけだけどねー?」



「胡桃、うるさい」



「・・・・男か?」



妙に低い声に唯はチラッと緋色へと目を向けた。



「・・・別に、緋色には関係ない」



「・・・・だーから、ここでは先輩だぞ?」



「・・・関係ないので放っておいてくれませんかね?緋色センパイ」



センパイ、と強調するように言う唯に、緋色は「全く・・・;」と溜息を一つ吐いた。




「これは俺から言っといてやるよ。今日は今から飲み行くぞ」



紙とペンを取られて、そちらを向けばニッと笑う緋色の姿に「・・・嫌」と拒絶を示す唯。



「ははっ、言うと思った。けど、これならどうだ?」



スタスタと部屋から去っていこうとする唯に、言葉を続ける緋色。彼の言葉に椎名と降谷の横を通り過ぎた唯は怪訝そうに振り向いた。



「お前の好きな店、好きなだけ食っていいぞ?」



お前、最近あんまり食ってないだろ?と言われた言葉に、グゥーと鳴るお腹の音。



「・・・・・・・」



少しだけ恥ずかしそうに頬を染める唯に、緋色は「やっぱりな」と笑った。



「・・・今日だけだから」



「唯の好きな店ってことはあのバーですよね!?ご飯もメッチャ美味しいんですよ!」



ちょーっと値が張るんですけどね?っと、笑いながら降谷の顔を覗き込む椎名。



「へぇー、緋色の奢りか。なら、付き合ってやるか」



降谷も小さく笑みを浮かべて言えば「お前も出せよ!!?」とショックを受ける緋色。



「お前が無理やり誘ったんだ。俺が出す義理はないだろう?」



「おいっ!!」



「降谷さんとご飯!」



「俺は!!?」



「緋色先輩は・・・ついでですね!」



「金払うの俺なんだけど!?」



「あー・・・御馳走さまです!」



軽っ!!と軽くショックを受け、トボトボと歩き出す緋色の後を椎名と降谷はついていった。



その後ろから溜息を一つ吐き、部屋の明かりを消してついていく唯。




「なんでもいいけど、その反省文を書かない理由はあんたが上司に言ってよね?」



「だーから、俺先輩」



「・・・私には火の粉が掛からないようにお願いしますね、緋色センパイ」



どこか棒読みに聞こえるような声で淡々と言葉を発する唯に、緋色は「・・・お前はそういうやつだよ・・・」と諦めたように肩を落とした。



「唯、久しぶりだね!」



「・・・ってか、あんたも行くの?」



「一人でイケメンに囲まれてご飯行くなんて絶対許さない〜」



「彼氏いるでしょーが;」



「彼氏とイケメンは別だよー?目の保養!」



「へぇー、椎名って彼氏いるんだな」



唯と椎名の言葉が聞こえてきた降谷が振り返り言えば、彼女はむぅっと少し頬を膨らませた。



「意外って顔してますよね?そういう降谷先輩は彼女は?」



「ははっ、居たら緋色に付き合うわけないだろ?」



「ですよねー」


二人して笑いながら言えば、緋色は頬を引き攣らせた。



「お前ら、俺が居るって分かってて話してるよな・・・?」




「・・・、そもそもなんでご飯食べになんて・・・」



ただ黙って聞いていた唯が、呆れたような表情を浮かべたまま言葉を発すれば・・・



「あぁ、それは降谷が肩に力が入りすぎてて、抜き方教えてやろーと思ってな」



と、ニッと笑う緋色に目を細めた。




「・・・息抜き?」




「必要だろ?降谷にも、お前にも・・・俺にもな」



「・・・・・・」



その言葉に何かを考え込む唯、そしてチラッと緋色を見た後、大きくため息を吐いた。



「おい、トラ。その顔はなんだ」



「別に・・・」



「なんだよ、言いたいことがあるなら言え、気になるだろ?」



「・・・あんたに息抜きは必要?ってか、降谷先輩の爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいんじゃない?(あんたの場合は肩の力抜きすぎ・・・)」



「お・・まえなぁ、俺だって色々とっ!!」



「色々と・・・何?サボってる?」



「だー!!もう!俺のこの扱いなんだよ!!」



「日頃の行い」



いつの間にか、前を緋色と唯が並んで歩き、漫才のような展開が始まっていたのだった。




それぞれの苦手意識
(・・・仲いいんだな)
(ですねー)
(椎名が緋色に対して辛口だって言ってたから仲悪いと思ってたんだが・・・)
(まぁ、結構仲良くなったほうですよー?緋色先輩がウザい位、唯の事構うからもう疲れたみたいですよ?)
(・・・あぁ、なるほど)
(今まさに、分かるって心境ですか?)
(まぁ・・な。トラって大賀のことだったんだな。最初誰だか分らなかったよ)
(あだ名つけて呼ぶのが好きみたいですよ?私は木の実でしたし)
(・・・胡桃だから?)
(ネーミングセンスなさすぎですよねー?何回かやめてほしいって言って漸く椎名にしてもらえました。降谷先輩もそのうちあだ名で呼ばれますよ)
(・・・・・・;(それにしても何で大賀がトラなんだ・・・?))

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