×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

予想外の出来事




「椎名!」



「え?あ、降谷先輩!」



名を呼ばれ振り返った椎名。自分の名を呼んだのはこの前、飲みに行って以降、久しぶりに会った先輩の姿だった。




お久しぶりです!なんて言いながら椎名が笑顔で手を振れば降谷も「久しぶりだな」と笑いながら近づいた。



「今日はお一人ですか?」



緋色先輩は一緒じゃないんですね。と椎名が言えば降谷は苦笑いを零す。



「同じ任務だと言って常に一緒にいるわけじゃないさ」




「あはっ、確かにそうですね」




「椎名、今から昼か?」



財布と携帯しか持っていない彼女に降谷が聞けば、「はい」と笑顔で答える椎名。



「さすがに一人で外食は気が引けるんでコンビニ行って済ませるつもりです」



「今日は大賀は一緒じゃないのか?」



「あー・・・・・」



降谷の言葉に言葉を濁す椎名。



「どうした?」



「・・・緋色先輩には内緒ですよ?」



「?・・・わかった」



首を小さく傾げるが、了承の意を示す降谷に、キョロッと辺りを見渡してチョイチョイと手招きした。降谷は自分より少し背が低い椎名に合わせて屈み、耳を近づけた。



「唯の彼氏、居たじゃないですか」



「え?・・・あぁ、あの痣作った原因の・・・」



「未だに別れてくれないらしくって、今日のお昼もその彼に呼び出されてます」




「・・・・・・・・」




「緋色先輩、唯の事結構、大事にしてますからそういうのすぐ心配するんですよ。あの日、私が緋色先輩にバラしたもんだから、私にも殆ど何も言わなくなっちゃって・・・」




なんでも、椎名は大賀の話をたまに聞いていたらしいのだが、あの飲んだ日に、緋色へと怒られろ、と言わんばかりに言った言葉で、椎名に言うと緋色へと伝わり、厄介ごとになる、という方程式が彼女の中で出来上がったようで、あれ以来、彼氏のことは何も言わなくなったらしい。



今日もなんとか聞き出したけど、絶対に余計な事は言わないでよ?と釘を刺されたらしい。




「なるほど・・・。でも、いいのか?一人で行かせて」



手が出る男なんだろう?と心配な表情を浮かべる降谷に「あれ以来、手は上げないらしいけど・・・」と椎名は苦笑いした。



「・・・・・立ち話もなんだし、コンビニで済ませるつもりだったなら昼一緒に行くか?」




「行きます!」



「そ・・そうか」



降谷の提案に椎名は勢い良く手を挙げた。




「椎名の彼氏は大丈夫なのか?」



「あぁ、いいですよ。仕事場の先輩かなんかだろう?って妬きもしないんで」



つまんない、と言わんばかりに口を尖らせる椎名に降谷は「ふはっ・・・」と吹き出した。




「・・・なに笑ってるんですか」



「悪い、悪い。ただ・・椎名、お前、彼氏が大好きなんだな」



ははっと、笑いながらポンポンと頭を撫でる降谷の行動と、その言葉に顔を朱に染める椎名。



「っ・・・・・」



「ははっ、顔真っ赤。結構男慣れしてると思ってたが、意外に可愛いとこあるんだな」



「いっ、意外にって失礼ですよ!」



「悪い、悪い。でも、そうか、お前の写メ撮ったり、送りつけたり・・・ただ妬いてほしかったわけだ?」




ニッと悪戯な笑みを浮かべる降谷に「・・・降谷先輩、イジワルです」と頬を染めたままそっぽを向く椎名に「ははっ」と笑う降谷。




「本当、大切なんだな」



「・・・大切ですよ?もう本当、彼しか見えないくらいに」



頬を朱に染めながらもフワリと笑う椎名に降谷は「そうか」と優しく笑った。



そんな話をしながら二人は椎名のお勧めの店へと足を運んだ。





店に着き、席へと座った後「そういえば・・・」と降谷は椎名へと切り出した。




「緋色が大賀を大事にしてるって?随分仲はいいみたいだけど、恋人同士、ってわけじゃなさそうだよな?」



大賀、彼氏いるみたいだし・・・と降谷が問えば「あぁ、それは・・・」と椎名が説明しようとした瞬間ーーー



ガシャンっーーーーと大きな音が店に響き渡った。



驚き、椎名も降谷もそちらを向けば入った時は気づかなかったが、唯の姿があった。




「唯!?」



驚きに声を上げる椎名だったが、彼女とは距離があり、その声が届くことはなかった。




「・・・・・・・」



降谷と椎名は顔を見合わせて、そちらへと向かえばポタポタと髪を伝い水が下へと落ちる、びしょ濡れの大賀の姿。




「ふざけるなよ!!?所詮おさがり女の癖してっ!!」




陰になっていて見えなかったが、近づけば男の姿があり、男が唯へとコップに入っていた水をかけた様だ。




「・・・その‘おさがり女’だからすぐにヤレると思って付き合ったんでしょう?」



視線を下に落としたまま、冷たい声で言い放つ唯に、男は一瞬息を飲んだ。




「お高くとまってんじゃねぇぞ!?どうせ誰だろうとホイホイ付き合うくせに!」



男の声が店内に響き渡る。



「・・・・付き合う前に言ったはずよ?私は別にあなたを好きじゃないと」



それでもいいから、と言ったのはあなた。好きじゃなくてもいいから付き合うと言ったから、別に構わないとは言ったけど・・・と淡々と言えば、男はカッとしたのか、唯の胸ぐらを掴み拳を振り上げた。



またか・・・。そう思って唯は目を閉じた。




「・・・・・・・?」



しかし、一向に痛みがこない事を不思議に思い、目を開ければそこには、振り下ろされそうな男の腕をしっかりと掴み、唯を庇う様に背を向けている降谷の姿があった。




「なっ・・・!?何だテメェッ!!?」



「無抵抗の女の人に大の男が手を上げようとしているのを見たら・・・止めるでしょう?普通」


フッと見下したように笑い、言う降谷に対して男が「くっ・・・」とバツが悪そうにその腕を振り払った。



「・・・・今度はこの男ってわけか?」



はっ!と鼻で笑いながら唯へと言葉を吐き捨てる男に顔を顰める降谷。



「別に、この人は関係ない」



唯は男へと言葉を発した。実際問題、ここに先輩がいることも予想外だが、こうやって庇われることも予想外だ。



「どうだか!あんたに忠告しといてやるよ!」



男は唯から降谷へと視線を移して言葉を発した。




「?」



「この女、誰とでもホイホイ付き合うくせに、何か月経ってもヤラしてくれねーぜ?」




ケラケラと笑いながら男は更に言葉を続けた。



「んな惜しむほどでもねーくせに、お高くとまってる高飛車女が!」



どーせビッチだろ!?と罵る言葉にカッとなり、手を振り上げたのはずっと黙っていた椎名だった。



バチン!と店内に大きな音が響き「最低!」と椎名が男を睨みつけた。男は一瞬止まるものの「なにすんだよ!!このアマ!!」と言って椎名の胸倉を掴もうとした。



その腕を降谷が止め、ギリギリと力を込めて握る。



「いっ・・・・!?」



「殴られて当然の事を言ったあなたが、逆ギレし手を上げるのは間違っていると思いますよ?」



「んだとっ!!?」




「名誉棄損、暴行罪などであなたを逮捕してもらうことも可能ですが・・・?」



降谷が男に冷たく言い放てば、「逮捕」の言葉に、うっ・・・とたじろぐ男。



「それに、僕は別に彼女に対して性行為がしたいからと言うだけの理由で一緒にいるわけではありません」



パッと男の腕を離し、後ろにいた唯の肩を抱き寄せた。



「−−−えっ?」



唯がその行為に驚きながら降谷を見るが、男には聞こえないくらいの声量で「シッ」と呟いた。



「・・・テメェ、やっぱ俺以外にも男がいたのか!?」



「誤解しないでください、僕らはまだ付き合ってはいませんよ」



あなたとの話がつくまでは付き合えないとはっきり言われてるので。とニコリと笑いながら言う降谷に唯は頬を引き攣らせた。



よくもまあ、ここまでホイホイと嘘八百を言えるもんだ。しかもなんの打ち合わせもなしに・・・



「っ・・・・・」



「彼女はあなたと別れたいとずっとお話ししてたようですね。いい加減、彼女を自由にしてあげたらどうですか?」



「くそっ!!こんな女くれてやる!!」



そう悪態吐き、男は背を向けて去って行こうとした。



「待って!」



抱き寄せられていた肩の手をすぐに振り払い、唯は男の背へと声を掛けた。



「唯!?」



男を引き留めたことに椎名が驚きの声を上げて、降谷も小さく目を見開いていた。



「あぁ!?」



男が不機嫌さを隠しもせずに振り返った。




「・・・ありがとう」



「は?」



突然、礼を言う唯に、男は心底意味が分からないというように怪訝な表情を浮かべた。



「あなたが、行為目的だけで私と付き合ったなんて思ってないから」



「・・・・・・」



「だって、あなたはずっと優しかったから・・・。なのに、ごめんね」



好きになれなくて、あなたの行為に応えることが出来ずに、結局はこういう結果になってしまって・・・



「好きだと、そう言ってくれて嬉しかった。あなたの好きと同じように、好きになれなくて本当にごめんなさい」



ペコッと頭を下げる唯に、男は毒気を抜かれたような表情になった。



「・・・・・ちょっと待ってろ」



男はそれだけ残し、店を出て行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。



その手には近くのコンビニで買ったであろうタオルを持っていてーーー



フワッとそのタオルを唯の頭にかけて、ワシャワシャと拭く。



「・・・悪かった。酷いこと言って・・・お前を殴って傷つけたりして、悪かった」



「・・・・・・」



「俺にはお前みたいなやつ、勿体ねーわ」



ははっと、笑い男は降谷を見た。



「もうこいつには近づきません」



こいつの事、お願いします。と頭を下げ、男はポンポンと唯の頭をタオル越しに撫でて「じゃあな」と去って行った。






予想外の出来事
(・・・ところで、なんでここに胡桃と先輩が?)
(たまたまお昼一緒にってなって・・って、そんな事はどうでもいいの!)
(へっ・・・!?)
(あんた人好すぎ!あんな罵倒してくる男にお礼言って、しかも謝罪!?馬鹿じゃないの!?)
(いや・・・元はといえば私が悪いんだし・・・)
(好きになれなくてごめん!?だったら最初から付き合うな!)
(・・・断ったけど、好きじゃなくてもいいからって言われて、断る理由もなかったし)
(それで結局こういう結果になってんでしょうーが!)
(・・・・・・・)
(まあまあ、椎名、落ち着けって・・・)
(先輩がいなかったら、あんたまた殴られてたんだよ!?)
(・・・別に助けてくれとは言ってない)
(唯っ!!!)
(椎名、いいよ。大賀の言う通り、俺が勝手に止めただけだから)
(・・・・ご迷惑おかけしました)
(ははっ、渋々って感じだな)
(・・・・・・)
(でも、あの人もそんなに悪い人じゃないのかもな)
(先輩まで!!)
(・・・私とさえ付き合わなかったら、暴力上げるような人じゃないですよ)
(・・・・・・(なんで、そうも傷ついた瞳をしている・・・?))
(あー!!納得いかない!!確かに最後は優しかったけどもっ!!)
(・・・胡桃)
(なに!!?)
(・・・ありがとね(自分の事みたいに怒ってくれて、酷い言葉で罵ってくる人に対して、真っ先に私を思って殴ってくれて・・・))
(・・・・・あんま、心配かけないでよね)
(・・・うん。もう少し自分の行動を改めるよ。降谷先輩も、本当にありがとうございました)
(・・・緋色に言いにくい事や、相談しにくい事だったら、俺でよければいつでも聞くから・・・)
(・・・・はい、ありがとうございます)



(傷ついた瞳をしていたあの時の、大賀の表情がどうしてこんなにも気になるーーー?)

(・・・先輩に近づきたく・・・ないのに(あの時、抱き寄せられた行為をどうしても思い出してしまうーーー))

back