敵わぬ相手(1/3)
「サスペンダーで飛ぶ・・・ねぇ?随分と危険な方法を考え付くのね」
ボウヤから聞かされた作戦は、上に来たヘリにこの壊れた電気の鉄の塊をサスペンダーの伸縮機能を使いぶつけ、撤退させるというものだ。
「無茶ぶりするりゅうさんよりマシだと思うよ」
・・・・言うようになったな。このガキっ。
コナンはカチャカチャとサスペンダーを外した。
「僕が・・・」
「私がやる」
「でも、りゅうさん肩を怪我してる。骨だって、折れてるかもしれないんだよ!?」
コナンが持っているサスペンダーを寄越せと言わんばかりに手を差し出すりゅうに対し、コナンはそれを渡そうとしなかった。
「顔を見られる可能性がある」
「でもっ・・・」
「私の情報はもしかしたらジンまでいってるかもしれない。でもボウヤは違う。顔が見られなかったとしても子供の姿である事は絶対に分かってしまう」
「っ・・・・」
「君まで危険に晒される必要なんてないよ」
「でも、でもっ・・・」
顔を俯かせて悔し気に呟くコナン。りゅうの言葉も分かる。まだ自分の正体は知られてすらいないのに、ここで姿を晒して見られてしまえば芋づる式に灰原の事もバレかねない。
でも、怪我を負っている彼女に全てを、危険の事をやらして自分だけ安全な場所に居るなんて・・・
「いつまでも追い続けるがいいーーー」
「え?」
「アイリッシュが、ボウヤに・・・いや、工藤新一に伝えてほしいと、最後の言葉よ」
「アイリッシュが・・・・」
一度顔を上げたが、また俯かせてしまうコナンと目線を合わすようにしゃがんだ。
「追い続けるんでしょう?これからもずっと、組織を・・・」
「・・・・・」
「こんな所で、足止め喰らってる暇なんてないのよ?」
「それはっ、そうだけど、それならりゅうさんだって同じっ・・・」
「私は組織を潰そうなんて思ってないもの」
「え?」
「ジンが殺せればそれでいい。ボウヤには悪いけどね。私にはそれだけが生きる糧だったから・・・」
「今は違うでしょ!!?」
「・・・それでも。十年以上もそうやって生きてきたから、今は違っても今更生き方は変えられない」
「・・・・・・」
「大丈夫、絶対生きて戻るから」
「・・・その後は?」
「ん?」
「・・・俺たちの前から、消えたりしない?」
コナンのその言葉と、心配そうに表情にりゅうはふわりと笑った。
「・・・信じてるから」
「えぇ」
パシッと渡されたサスペンダーを手にして説明を聞いた。
「ただ、注意して。さっきの銃撃の時、壊れちゃった可能性があるんだ」
「ん?」
「りゅうさん、肩怪我してるからこれを腰に巻いて伸縮機能を使う瞬間にこのボタンを押して、腰に巻いたベルトを外す」
「これ巻かなきゃだめ?」
ない方が確実じゃないか?と問えば「怪我してる肩と身体で空中で身体を捻ってその反動に耐えるのは自殺行為だよ」と言われて渋々それを腰に巻き付けた。
バババババッーーーと大きな音を立ててヘリが真上へとやってきた。
フゥ、と深呼吸をして銃弾が撃ち込まれる前に飛び降りようとすれば「りゅうさん!」と名を呼ばれた。
「信じてるから」
真っすぐに強い目を向けられて、フッと笑うりゅう。
「さっきも聞いた」
じゃ、また後で。と言葉を交わして飛び降りた。
飛び降り自殺って、こんな気分なのか・・・、と全く違う事を考えながら、そろそろ最大の長さに到達すると確認して、くるりと体の向きを変えた。その際、ガクッと身体に掛かる負荷に顔を顰めた。
「ははっ、ボウヤのいう通り巻いといてよかった、かな?」
もしも巻いてなければ途中で手を離してしまっていたかもしれない。そのまま視線を上へと向けてヘリを見た。
ヘリから撃ってこない所をみると、逃げきれないと諦めて飛び降り死のうとしていると高を括って見ているのだろう。
「残念♪」
墜ちればいい。と呟き伸縮機能のボタンを押した瞬間に、身体からベルトを離すボタンを押す。
「−−−−え?」
伸縮機能の音がシュルシュルと鳴り始めたのに対し、腰に巻いていたベルトを離すのに押したボタンが作動しなかった。
「・・・嘘でしょう;」
このまま腰に巻かれているベルトを離さなければヘリを堕とすのに自分がヘリに叩きつけられる。
それでジンを巻き込めれるのなら本望ではあるが、奴がそれで死ぬとは到底思えない。
それに何より生きて帰ると秀一に約束した。
彼の元へと戻らなくてはーーー
ーーー信じてるからーーー
コナンの声も聞こえてきてフッと笑った。
「たく、どいつもこいつもっ、人に枷ばっかつけやがって!」
独りの時にはなかった、枷ーーー
絆、信頼という名の鎖ーーー
ーーー生きる事を諦めるなーーー
秀一の言葉が頭に過った。
「うん、諦めないよ。私は生きるっ!!」
彼とそう約束したんだ!!
ガチャガチャとベルトを外そうと必死に手を動かすが、伸縮ベルトが作動し始めた。
「マズいっ・・・・・」
ギュッと目を閉じるりゅう。
ヒュンッ――――と風を切る音が聞こえて驚き目を開ければ、顔のすぐ真横を何かが通り、腰に巻かれていたベルトが切れた。
ドサッと身体がその場に落ちて、シュルシュルと伸縮ベルトが作動し、真っすぐにヘリの後方へと向かって行った鉄の塊。
「ライフル、秀一・・・?」
切れたベルトを見た後、弾痕を見て小さく呟き、彼が居るであろう方へと目を向けた。
はるか遠くにキラリと光る物にフッと笑った。
「ありがと」
大きな音を立て爆発するヘリには目もくれず、りゅうは立ち上がった。
ツキンーーーと痛むお腹に手を当てながらゆっくりと下へと向かった。
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