渦巻く思考(1/3)
「じゃーん!フルハウス!」
ニコッと笑いながら7とクイーンのカードを見せる蘭に「蘭ちゃん強すぎやわぁ」と隣で見ていた和葉が声を上げた。
「またねーちゃんの勝ちかいな」
「平次にぃーちゃんは一度も上がってないね」
「うっさいわ、こんガキ!」
俺はこういうのは苦手や。と言いながら和葉を呼び交代する服部。
「ちょ、平次!なにもビリん時に変わらんといてや」
「ビリでもそのおっさんと対して変わらんわ」
和葉の言葉に服部が海老名を指さしながら言えば「はは、私もこういう賭け事は滅法弱くて・・・」と苦笑いしていた。
和葉と交代した服部は、一人ビリヤードのキューを手に持ちながらボーっとしているりゅうの近くへと向う。
「さっきからそれ持っとるけどやらへんの?」
「・・・え?」
いきなり話しかけられて反応が遅れたりゅうが服部を見れば「持ったはいいけどできへんとか?」と揶揄うように笑った。
「あぁー・・・いや、そういうわけじゃないんだけど。服部君、やる?」
「え・・・、いや、俺はええよ」
揶揄うつもりがまさか自分に返ってくるとは思わず、ギクッとしながら両手を振った。
「・・・へぇ?ビリヤード出来ないんだ?」
その様子を見てりゅうはフッと笑いながら言えば彼は「出来んとは言うてへん!」と少しムキになって答えた為、クスクス笑ってしまった。
「ちょぉ、貸しぃ!」
笑われたことにムッとしながらりゅうが手に持っていたキューを奪い取り構える服部。
「・・・・へぇ、様になってんじゃん」
カッコイイ〜♪と言いながら口笛を吹けば、気になったらしい和葉が後ろを振り向き服部を見た。
「っ・・・・」
キューを構えて真剣な表情の服部にトランプを手に持ったまま顔を赤らめる和葉に蘭とコナンもそちらを向いた。
「・・・・・・・」
真剣な表情のまま、キューを滑らせ手玉である白い球を突こうとすれば・・・・
スカッ―――
「ありゃ・・・・」
「・・・・・・・・ダッサ」
服部が狙いを定めたキューは手玉に掠る事もせず盛大に空振り、ちょっとカッコイイ、と思った自分が馬鹿だったと言わんばかりに和葉は目を細めて小さく呟いた。
「うっさいわ!!」
その彼女の呟きはしっかりと服部へと届いていたらしく、恥ずかしそうに頬を染めながらも「そもそもビリヤードなんてやった事もないわ!!」と怒鳴った。
「ふっ、ははっ・・・やった事ないならやった事ないって言えばいいのに」
随分と負けず嫌いだねー、と小さく笑いながらりゅうが言えば「・・・カッコ悪いやん」とフイッと顔を逸らしてしまう服部。そんな彼を見ながら「あぁ、弟が居たらこんな感じなのかな」なんて思った。
「でも構えなんかは中々良かったよ?」
様になってたし、カッコよかった。と言えばさっきとは違う意味で頬を紅く染めて「・・・おおきに」と小さく呟く服部。
「さっきみたいに構えて」
「え?・・・あぁ」
りゅうに言われて服部が先ほどと同じように構えた。
「腰、もっと落として」
ポンッと服部の腰を小さく叩くりゅう。それに「お、おおっ・・・」と少し戸惑いながらも腰を落とす服部。
「そう、そしたらキューを持ってる腕はこう・・・で、この時視線は絶対に手玉から外さないようにね」
服部の横に並び腕の位置、そして肩、見る方向を教えていく。その際にチラッと服部が横を向けば、すぐ近くにあるりゅうの顔。そして手をしっかりと握るその温かさに顔を赤らめた。
「・・・・・・・」
その様子を見ていた和葉はムゥと頬を膨らませていた。
「そう、そのまま・・・一気に」
りゅうの言葉にあわす様に服部がキューを押し出し手玉へと・・・・
スカッーーーー
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
無言になるりゅうと服部。
「あ、マスター。レッドアイってあります?」
そんな服部から離れてりゅうはお酒を頼む。そしてすぐに出てくるレッドアイに、コナンは半目で笑った。
「(ははっ、レッドアイの酒言葉は同情・・・って?)」
コナンが思っていたことは服部も知っていたのか「もう絶対ビリヤードはやらへん」と不貞腐れていた。そして気分を変える為か、先ほど変わったばかりの和葉とトランプを交代した。
「・・・和葉ちゃんもやってみる?」
どこか不機嫌そうな和葉にりゅうが苦笑いしながらキューを差し出せばフイッと顔を逸らされた。
「・・・・・・・」
そんな彼女の様子に「あぁ、さっきの服部君とのやり取りはまずかったか」と内心で苦笑いを零した。
「・・・・・ぃ」
「え?」
気を取り直してビリヤードでもやるかと思い位置に着こうとすれば和葉が小さく何かを呟き、聞き取れなかったりゅうは首を傾げた。
「私も、やった事ない・・・から、その・・・・」
ちょっと照れくさそうに言う和葉を少し不思議に思いながらもりゅうは小さく笑った。
「大丈夫、そんなに難しくないし・・・それに」
和葉にだけ聞こえるように彼女の耳元で小さく言葉を発した。
「彼が出来ないことが出来たら、ちょっと優越感じゃない?」
「え?・・・・た、確かに」
「ね?ダメで元々、一度やってみたら?案外向いてるかもしれないし」
「そ、そやね!りゅうさんが教えてくれるんやったら出来るかも・・・?」
ちょっと自信なさげではあるが、先ほどよりも楽し気な和葉にりゅうはニコリと笑った。
「やめとけ、やめとけ。お前にも向いてへんて」
服部が鼻で笑いながら手をヒラヒラさせれば和葉はムスッと頬を膨らませた。
「ねー、平次にぃーちゃん」
「あー?」
コナンが服部の名を呼べば「なんや?」と首を傾げた。
「和葉ねーちゃんってもしかしてりゅうさんの過去・・・」
コナンが言いづらそうに言えば服部は察したように「あぁ、そのことか」と気まずそうに呟いた。
そしてコナンだけに聞こえるように小声で話し出した。
「お前が調べてみろ言うてたやつおったやろ?」
服部の言葉に五反田大輔を調べて見ろ、と言った言葉を思い出し小さく頷いた。
「一人ん時、調べてたら和葉の奴入って来よって、それで五反田の名前見た瞬間、あいつ妙に見せろ言うて退かんかってん」
服部の言葉にコナンは難しい表情を浮かべた。
恐らく、和葉はコナンが五反田大輔を調べて見ろと言った時、名前だけが聞こえていてずっと気になっていたのだろう。そして服部が調べている時にたまたま居合わせ、その名前を見て和葉自身もコナンが言っていた事を知りたくなった。そして服部同様、りゅうの過去を知った。だから依然感じていたりゅうに対しての棘の様なモノをが無くなったのだろう、とコナンは考えた。
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