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動き出す歯車(1/2)



「・・・・・・・」


夜が明けてきたのを視界の端に捉えながらりゅうはゆっくりと目を閉じた。次に目を覚ましたのはそれから一時間ほど経った後だった。


ムクリと起き上がり髪を掻き上げながら時間を見て眉を顰めた後、外を見れば先ほどよりも少しだけ明るくなっただけの空に小さく溜息を吐いた。


もう寝れそうにないな、そう思ってベッドから降り台所へと足を運んで一杯の水を飲んだ。


「・・・・・・土曜日、か」


カレンダーで日付を確認して、今日はどうするか・・・と考えた。


「・・・そう言えばメイク道具が切れてたな」


組織と対決するための変装道具の特殊メイク用の物が切れていたのを思い出した。近くで買うと足がつく。なので出来るだけ遠くへ出かけて同じ場所では買わないようにしていた。本当だったら平日の方が混まなくていいのだろうが、東京であれば、平日の方が学生の通勤などが多いため、土日の方が空いている時の方が多い。


「・・・・いつ変装しなきゃいけなくなるか分かんないし、早めに買いに行くか」


そう決めてから、支度を始めた。こちらの世界にきて早26年。記憶が戻ってからは11年経った。中学も卒業した後は、必要ならば大学に通う事が出来るように最低限の学歴、通信制の高校を出た。


出来るだけ人との関わりを断って過ごしてきた。そのおかげか、元の世界で知っていた、名探偵コナンに出てくる主要人物に会う事は一度もなかった。同じ米花町に住んでいても、だ。


「まぁ、必要最低限家から出ないから当たり前と言えば当たり前か」


11年もの間、独りで生きてきた。誰とも関わらず必要最低限の会話もせず・・・。だからきっと、ここまで会う事はなかったのだから今更会う事はないだろうと高を括っていたのが凶と出たのか、吉と出たのかーーー


この時、りゅうはまだ知らないーーー


今日、今から起こる最悪な出会いが、かけがえのないモノになる事をーーー



・・・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・」


赤井が目を覚ました時、外はまだ薄暗かった。時計を確認するとそこには4を指す針に、起きるにはまだ早いか・・・、ともう一度目を瞑った。


ーーー大君!ーーー


目を閉じて数分、聞こえてくるはずのない声と、眩しい位の笑顔の宮野明美の姿にハッとし、バッと起き上がった。


「っ・・・・・・」


夢か、と気づいたのは早かった。額へと手を当て、小さく溜息を吐いた。


「明美・・・・」


彼女が死んだと聞いたのは数か月前、今でも彼女には罪悪感が晴れることはなかった。せめて、せめてあの時ーーー


ーーー私の事、本当に利用していた・・・だけ?ーーー


瞳に涙を溜めて無理に笑って振り向いた彼女に、俺は答えてやることが出来なかった。利用していると気が付いていながら、俺の隣にずっと居た明美に俺は・・・


彼女が隣りに居る事で、安心出来た時は何度もあった。彼女と居ると素の自分で居られる事も何度も・・・もうそれが、答えだったはずなのに・・・


「お前を、愛していたさ・・・・」


いつの間にか、本気で愛していた事実に気が付いたのは彼女が亡くなったと聞いた時。バカな女だ。こんな男を・・・利用していると気が付きながら、本気で愛していたなんてーーー


「すまない、明美ーーー」


あの時、答えてやることが出来なくてーーー


愛していると気が付いたのが遅すぎてーーー


お前を、護ることが出来なくてーーー


赤井はやり切れないイラつきに、ガンッーーーと思いきり壁を殴りつけ、自身を落ち着かせる様に深呼吸を一つした。


「・・・・・はぁー・・・」


先ほど起きた時よりも、全然針が進んでいない事を確認したが、今更もう寝れる気がしなかった。ベッドから降りて台所へと向かい、一杯の水を飲んだ。


「・・・・ここまで鈍感だったとはな」


まさか失って初めて気が付く程、自分の気持ちも気づかないなんて・・・人の動向や他の事には鋭い自信はあるが、自分の感情にここまで鈍かったことに苦笑いを零した。


「・・・・せめて、もう二度とこんな後悔をしないように」


失って初めて気づく大切なモノなんてーーー


「もう二度と、ごめんだな」


そう言って浮かべた笑みは自嘲を含んでいて、悲し気な表情だったーーー


ーーー大君ーーーと、また聞こえてきた声に、目を瞑れば、困ったように笑う宮野明美の姿が浮かんだ。


ピリリリッーーーと突如鳴る電話に、ハッとし手に取ればそこにはジェイムズの文字。そして外へと目を向ければいつの間にか空は明るくなり始めていて、どれだけの時間、ボーっとしていたのか、と苦笑いを零した。


「もしもし」


≪赤井君、私だ。今大丈夫かね?≫


「はい、大丈夫です」


≪今日、例の人物が動くとジョディ君から連絡が入った≫


「あぁ、高校の教師に潜り込んでいる例の・・・」


≪ジョディ君が偶然を装い彼に接触して行き先を連絡してくれる手筈になっている≫


「では私はその連絡が入った場所に先回りして奴の行動を監視、ということで?」


≪あぁ、頼めそうかね?≫


「了解」


ピッ、と電話を切った後、赤井は先ほどまで浮かべていた、悲し気な、寂し気な色を引っ込め、視線を鋭くさせた。


「組織を潰し、妹をあの呪縛から解放する事、それだけがお前に出来る唯一の罪滅ぼし・・・か」


目を瞑ればまだ、困ったように笑う明美の姿が浮かんだーーー




・・・・・・・・・・・・・・・・・
(バスに乗ったのが間違いだったっ。いや、そもそも今日出かけようとしたのが間違いだった。・・・・寝よう。知らないフリ知らないフリ・・・)
(ゴホッ、ゴホッ・・・・)
(ははっ・・・;ビンゴ。赤井秀一・・・私寝てます。何も知りません)

(大丈夫ですか?)
(あ、はい。大丈夫です(バカだ、私。横から差し出されれば赤井秀一だって分かるだろっ・・・)





聖奈様!この度はリクエスト企画にご参加頂きありがとうございます!
第一話が始まる前の二人の行動、心境などを書かせて頂きました!二人とも朝目覚めて、寝れない感じから始まりましたが・・・聖奈様のご希望にどこまで沿えたか心配です><
もしも違う内容がいいとの事でしたら、聖奈様にみ!書き直し依頼をお受けいたします!
応援のお言葉まで本当にありがとうございました!またいつでも!遊びに来てください!




         おまけ→

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