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想像以上の行動力



「無理です!絶対無理ですって!!!」


「あらー?どうして?すっごく似合ってるわよ?」


「そんなお世辞いりませんって!マジ無理です!私こんな格好したことも、ましてや人前で歩くこともしたことないです!!」


「だったら尚更よー!ここはアイスランド、知り合いも恋人の赤井君しかいない!彼もこんなお洒落なりゅうちゃん知り合いに見せたくないだろうしね!」


「秀一にも見られたくありません!!」


こんなっ・・・こんな!!女の子女の子した、フリフリした服装!絶対無理です!とりゅうは全力で拒否った。


「・・・・そう、りゅうちゃんにはとてもよく似合うって思ったんだけど、私が可愛いって言ってもりゅうちゃん自身は嫌なのよね・・・・」


無理言ってごめんなさい。としゅん、と落ち込む有希子にりゅうは「うっ・・・」と怯んだ。


「そうよね、りゅうちゃんは私が選んだ服なんて着たくないわよね」


「っ・・・・着ます」


悲しげで泣きそうな有希子を見て、りゅうは負けた。と言わんばかりに肩を落として小さく呟いた。


「本当!?わー!嬉しいわ!赤井君もきっと喜ぶと思うわ!!」


さっきまでの悲しげな表情はどこへ・・・?さすが、女優。と感心してしまうほどのこの変わり身の早さにもうただただ、溜息しか出なかった。





「えっ!?帰るんですか!!!?」


「ごめんなさいね、今日はどうしても外せない用事がニューヨークであって・・・」


顔の前で両手を合わす有希子さんは本当に申し訳なさそうな表情をしていて・・・というか、ニューヨークって、どんだけ離れてると思ってるんですか・・・?簡単に行き来できる場所じゃない。それは、日本とアイスランドも一緒なのだが・・・


「りゅうちゃん」


「は、はい」


いきなり呼ばれた名に、ハッと我に返ったら真剣な表情の有希子さんに少し驚き、緊張してしまった。


「この国に、あなたを知る人はいないわ」


「そうでしょうね」


「赤井君のことも、知ってる人いないと思う」


「・・・はい」


「だから、だからね?今日一日は・・・この国にいる今日だけは、過去も今背負ってる十字架も、全てその小さな背中から降ろしてただの女の子・・・ううん。工藤有希子の娘のりゅうとして楽しんでほしいの」


罪悪感も、復讐心も全て、せめて今日だけは忘れて普通の女の子としてーーー


「っ・・・・・・」


有希子の言葉にりゅうは悲しげな表情を浮かべて息を飲んだ。


「ごめんなさい。あなたを苦しめるために言ったんじゃなくて、本当にーーー」


「私のためを思って・・ですよね。ありがとうっ、ございます・・・」


そうか、この人がこんな突拍子もない行動を起こしたのは、私に普通の女の子としてデートを楽しんでほしかったら・・・


この誰も私を知らない国で、秀一と本当の姿で出かけれるように、お膳立てしてくれたんだーーー


なんで、この人は赤の他人の私なんかの為にここまでっ・・・・


ふいに溢れた涙で視界が歪めば、優しく抱きしめられた。


「今、私‘なんか’って思ってるでしょう?」


言い当てられた事実にドキッとしてしまった。


「ふふ、図星ね?いい?りゅうちゃん・・・女は私‘なんか’って使ってはダメよ?いい女の格が下がるわ」


「いい女・・・?」


「もちろん!りゅうちゃんほどいい女はそうそう居ないわ!」


「有希子さんはいい女です」


「確かにねー!私もいい女でりゅうちゃんより先輩な分、少しだけ上のいい女ね!」


そんな彼女の返しにおかしくて、泣いていたはずなのに笑ってしまった。





「赤井君!お待たせ!」


「いえ、女性は支度に時間が掛かるものですから気にしてません」


ロビーへと有希子が行けば、赤井が椅子に座って外を眺めながら待っていた。


「やん!もう赤井君って紳士なんだから!」


惚れちゃいそうよ!と有希子が言えば赤井は「優作さんには負けますよ」と小さく笑った。


「りゅうは?」


「ちょっとお手洗い行ってからくるそうよ。じゃあ私はこれで!ささやかだけど、きょう一日だけでも、普通の恋人同士として楽しんでね!」


ウィンク付きで笑う有希子に赤井は「ありがとうございました」と頭を下げた。


「有希子さんがくれたプレゼント、絶対に楽しんで日本に帰ります」


「ふふっ、そうしてくれると頑張った甲斐があるわ!」


じゃあ、私はこれで。と有希子が去ろうとして「あ」と思い出したように振り返る。


「?」


「りゅうちゃん、とびっきり綺麗よ?」


いくら赤井君でも言葉、失っちゃうかもね?と悪戯な笑みを浮かべて去っていく有希子に「それは楽しみです」と小さく笑った。それから少し経てば、顔を真っ赤にしたまま、ゆっくりとこちらへと歩いてくるりゅうに赤井は「ほぉー・・・」と言葉を零した。


「・・・・ジロジロ見ないでよ、恥ずかしい」


フイッと顔を背けるりゅうは、耳まで真っ赤で赤井は喉を鳴らした。


「笑うなっ!私も似合ってるとは思ってないし!!いっ・・・一緒に歩くの恥ずかしいなら、有希子さんには悪いけど着替え・・・・」


そこまで言って、突如グイッと腕を引っ張られた。


「わっ・・・・」


ボスッと赤井の胸へとダイブし、しっかりと抱きしめられた。


「恥ずかしい?そんなわけないだろう?綺麗だ」


身体を離し、髪を一房持ってそれに口づけを落としながらりゅうを見つめる赤井に、一気に顔に熱が集まるのが分かった。


「っ・・・・・」


「くくっ、有希子さんが折角ここまでお膳立てしてくれたんだ。今日は楽しむとしよう」


全てを忘れてーーー


「・・・・・うん」


真っ赤な顔を見られまいとソッポを向き、緩みそうになる口元を手で必死に隠した。そして自然と繋がれた手にりゅうは更に顔を赤くした。


「そんな顔をするな。夜と言わず、ここで脱がせたくなる」


「はっ!!!?ぬがっ・・・!?」


何を言い出すんだ、この男はっ・・・・


「その服、脱がしやすそうだしな。まあ、有希子さんもそれを狙ってその服にしたんだろう」


「はっ!!?」


「俺に服を選べと言ってきた服だからな、それは」


「あんたが・・・選んだ服?」


「あぁ」


「な、なんで?」


「男が女の服を選ぶのに理由は一つだろう?」


「へ?」


「贈った服を自分で脱がすためだ」


「馬鹿じゃないの!!!?」


くくっ、と喉を鳴らしながらそう言った赤井の表情は、真っ赤になるりゅうを見て楽しんでいるようで、りゅうは楽しいデート、というよりはもうその事しか考えられなくなってデートどころではなかった。



       チャンチャン

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